第11話 獅子王との対面

「それでは、始め!」


「それじゃあ、行くよ!イツキくん!」

「お、お手柔らかに…」


 マーシャルさんが俺に向かって全力で斬りかかってくる……どうしてこうなったんだ……


 時は遡ること数時間前。


「おはよう……」

「お、おう…どうしたんだ?その顔」


 昨日の夜、あまりの緊張で眠れなかった俺は結局朝方まで起きており、目の下には大きなクマが出来ていた。


「いや、今日王様に会うと思ったら緊張して眠れなくて……」

「イツキも緊張するんだね」

「ナタリー、イツキさんだって人間です。緊張の1つや2つします!ましてや相手が国王陛下だなんて、王国騎士団だったアランさんはともかく、ナタリーが緊張していない方がおかしいんですよ?」

「そんなものかなー?向こうが招待して来たんだから緊張しなくても大丈夫だよー」

「その性格が羨ましいよ……」



 そうこうしていると、王城に出向く時刻へとなった。


「はぁー、なんで王様に会うんだよ」

「まぁ、領主だったマグワイアの犯罪の証拠を集めて、魔人まで倒したってなれば呼ぶのが普通だろ」


 王城へ向かいながらぶつくさ文句を言う俺にアランはサラッと言い放った。


「引き受けるんじゃなかった……」

「大丈夫だって!王様も感謝してるはずだよ」

「そうですね、イツキさんはアルベルト王国の危機を救ったと言っても過言ではありませんから」

「危機って…そんな大袈裟な……」

「お?見えてきたぞ。ここがアルベルト国王の城だ」


 ここが…国王の城……


 昨日見た時は遠くからで、いまいち大きい事しか分からなかったが、改めて近くで見ると壮観だ。日本の城とはまた違った西洋の城といった感じで、綺麗な街並みにこの白い城壁はよく映える。何より、この城を中心として街が築かれており民衆がいかに国王を敬わっているか伺える。

 事実、この街に入ってから国王やこの王都に対する不満の声を一切耳にしなかった。それほど優れた王で人格者ということなのだろう。


「止まれ!何者だ!」

「ここは国王陛下の城、許可無く入ることは出来んぞ!」

「あ、いや俺らは国王様に招待されて来たんです。冒険者のイツキ・アイザワです」

「イツキ・アイザワ……はっ!失礼しました!お話は伺っております」

「冒険者イツキ・アイザワ殿とそのパーティーの皆様、どうぞお通りください!」


 長槍を持った2人の門番は顔も声もとても似ており、交互に話しながら俺らを通した。


「ねぇねぇ、アランさっきの2人って双子?僕初めて見たよー。双子ってあんなに似てるんだね」

「私も初めて見ました。あそこまで声も顔も似るなんて不思議です!」

「お、よく分かったな。あの2人はミュラー兄弟ってんだ。兄貴がクロード、弟がロベール。見分け方は未だによく分からん」

「それって騎士団的には困らないのか…?」

「まぁ、困ってなかったな。面倒な時は両方呼べばいいしな」

「結構適当なんだな騎士団も」


 そうこう話しているとマーシャルさんが出迎えに来た。


「やあ、イツキくん達よく来たね。それにアランも久しぶりだね」

「ご、ご無沙汰しております!マーシャル団長!」


 アランは片膝をつき、胸に拳を当てながら話した。


「久しぶりだね、アラン。イツキくん達のパーティーは楽しいかい?」

「は、はい。イツキ達が俺を優しく向かい入れてくれたおかげですぐに馴染め、今は楽しい日々を過ごさせてもらっています」

「それは良かった。僕らとしては騎士団の守りの要である君を失うのは痛手だったけどね」

「も、申し訳ございません…」

「冗談だ。アラン、君の守りは必ずイツキくん達を守るものだ。油断しないよう精進してくれよ」

「は、はい!このパーティーの最強の盾になるため精進して参ります!」


 普段のアランからは想像できないほどしっかりとした受け答えの仕方だな……まぁ、相手が元上司のマーシャルさんなら仕方ないか。


「ねぇ、ソフィー。アランがまともだよ」

「な、ナタリー、アランさんだって普通のご挨拶くらいできますよ!」

「でも、あのアランだよ?予想外というかさ」

「た、たしかにそれはそうですが……」


 2人とも止めてあげて……アランが顔を赤くしてプルプルしてる……


「アハハ、アランだって元王国騎士団だ。礼儀作法くらい弁えてるさ」

「だ、団長……」

「さ、早く行こう。国王陛下がお待ちだ」



 マーシャルさんに連れられ城の中に入った俺らは、あまりに広く豪華絢爛な城内に驚いていた。


 長い廊下を歩いていると、大きな扉の前でマーシャルさんの足が止まった。


「陛下、冒険者イツキ殿とそのパーティーをお連れしました」

「うむ。入れ」


 大きな扉が開き、謁見の間へと入ると俺たちは王の前まで案内された。

 この世界での礼儀作法が分からない俺は、アランやソフィーの真似をして片膝をついて頭を下げた。


「よく来たな冒険者イツキ・アイザワとその仲間達よ。余がアルベルト王国10代目国王アルフレッド・アルベルトだ。」


 玉座に深く腰かけこちらを見る国王アルフレッド・アルベルトは、獅子王の名に恥じぬ威圧感に一国の王とは思えないほどがっしりとした体。ウェーブのかかった金色の髪は獅子を連想させ、整えられたその髭は国王の威厳をより強固なものにしていた。



「お、お初にお目にかかります、イツキ・アイザワです。自分は礼儀作法を知らないため御無礼があれば申し訳ございません」

「なに、今回はこちらが一方的に招いた。礼儀作法など不要だ。どうか楽にしてくれ、堅苦しいのは苦手でな」

「ほらー!だから言ったじゃん!向こうが招いたから心配ないって」

「お、おい無礼だぞ!ナタリー」

「ハッハッハッハッハッ!よいよい、構わん」

「も、申し訳ございません……」


 獅子王なんて恐れられこの風貌だ。かなり警戒していたんだが、ナタリーの無礼にもこの寛容さ。もしかして、めちゃくちゃ優しい人なのでは!?


「今回、主らを呼んだのは他でもない。先日のマグワイアの件の礼を言いたかった。本来、貴族の失態は王である余の責任。それを民である主ら冒険者に尻拭いをさせた……改めて、イツキ殿此度の件大変助かった。どうか、許して欲しい」


 そういうと国王は深々と頭を下げた。それと同時に並んでいた王国騎士団もマーシャルさんを筆頭に頭を下げた。


 国王というのは玉座でふんぞり返るものだとばかり思っていたが、この王様は自らのミスだと、たかが冒険者に過ぎない俺に頭を下げた。

 俺はこの王様が国民から賢王と慕われる理由が少しわかった気がした。


「あ、頭を上げてください!俺は仲間を危険に晒したあいつが許せなかっただけです。正直、王様の為だとかこの国の人のためだとか一切思ってませんでした。俺はただ、仲間のために動いただけです」

「仲間のためか……そう思い行動できる人間は、果たして何人おるか…イツキ殿、そなたのその行動は結果として余と余の民を救った。どうか、それだけでも覚えておいてくれ」

「な、なんか少し照れくさいですが分かりました、覚えておきます」


 国王から礼を言われ少し驚き、照れくさかったが人柄もあってか、俺はすんなりと感謝の意を受け取る事が出来た。



「時に、イツキ殿。お主、魔人と戦ったそうだな」

「あ、はい。マグワイアの手助けをしているとかいう魔人と戦いました」

「魔人は何か言っておらんかったか?」

「そういえば……魔王が動き出したとかなんとか」

「ま、魔王とな……ついに、やつが動き出したか……」


 謁見の間は驚愕の知らせにざわめきが起こった。


「あ、あのー…魔王ってそんな強いんですか?」

「プッ…アハハハハハ!イツキくん流石だね。魔王相手に強いのかと来たか!」


 王様の横に立っていたマーシャルさんは思わず吹き出し笑い、涙を拭いながら言った。


「いいかい、魔王はこの世の魔物を統べる王だ。当然魔物を統べるには力がいる。その力は僕らの計り知れないものとなっているはずだ」

「王国最強のマーシャルさんでも太刀打ち出来ないんですか?」

「そうだね…僕1人で何とかなるかもしれない……が僕が敵わない時はイツキくん。君と組むしかないだろうね。魔人を素手で倒せるほどの強さを持つ君と」

「あ、いや、そんな俺と組むなんて、俺なんてまだまだですよ」


 魔人を素手でという部分に引っかかったのか、国王をはじめ、あの場に居合わせていなかった騎士団員は驚きの声を上げた。


「ま、マーシャルよ。イツキ殿は魔人をただ倒しただけでなく、素手で倒したのか?」

「その通りでございます国王陛下。彼はどうやら幼少の頃より武術を嗜んでいるようでして、武器を使わずとも相当の強さを身につけております」

「にわかには信じがたいが……マーシャル、お主が言うのなら真実なのだろう」


 国王はしばらく考える様子を見せた後、とんでもない事を言い放った。


「イツキ殿、是非このマーシャルと手合わせをしてはくれないか?」

「え……?マーシャルさんとですか……?」

「いやなに、イツキ殿の実力を疑うわけではないが、素手で魔人をというのがにわかには信じがたいものでな。そこで王国最強にして雷光の名を持つマーシャルと手合わせして欲しいと」



 雷光…?何それカッコイイー!じゃなくて、なんだよその強そうな2つ名は!

 無理だって王国最強だろ!?なんでそんなの相手にしなきゃいけないんだ!


 心の中で叫びつつ、ソフィー達に目を向けると、輝いた目で頑張れと言わんばかりのガッツポーズを向けていた。


 マーシャルさん、マーシャルさんなら止めてくれる!


「イツキくんと手合わせですか……実は興味がありました。是非ともお願いしたい」


 だ、ダメだ……どうやっても逃げられそうにない…

 もう観念するしかないのか……


「わ、分かりました…で、ですが、俺にも剣を貸してください!流石にマーシャルさん相手に素手は無理です」

「あい分かった。では、10分後に騎士団の修練場に来てくれ」


 こうして、俺はマーシャルさんと手合わせをすることになり、冒頭のシーンへと戻るわけなのだが……


 なんで、誰も止めてくれなかったんだ!ソフィーなんて、イツキさんなら出来ます!って言わんばかりの表情で、ナタリーもアランも面白そうって表情してたし……

 俺、無事に帰れるんだろうか…

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