第2話 ワンインチで片付ける
「よし!ゴブリン討伐完了っと」
今俺が狩っているゴブリンは新人冒険者でも狩れる魔物で、新人冒険者3人で1匹のゴブリンが狩れるらしい。
そして、俺が最初に倒したオーガはどうやらシルバーランクが10人を要して倒すレベルで、1人で倒すのはゴールドランクでも上位の冒険者だけらしい。
つまり、俺は本来ゴールドランクでも上位の実力があるらしい。ただ、レベルアップをした事で今ではさらに力をつけているはずだ。
なぜイツキがスキルも魔法も無しにここまでの強さなのか・・・
イツキの実家は道場を経営しており、小さな頃から強くなる為にと、古今東西様々な武術を学ばされていた。その結果、イツキの実力は元の世界でも、この世界でも抜きん出たものになっていた。
「カイラさーん!ゴブリン狩って来ましたー!」
「あら、イツキさん。お疲れ様です!」
カイラは天使の様な微笑みでイツキを迎えた。
「依頼にあったゴブリン討伐の証拠です」
魔物を狩る依頼では魔物の一部を持ち帰るか、魔物そのものを持ち帰ることで討伐の証明になるようだ。
「はい。確かに確認しました。報酬の銅貨10枚です。」
この世界の貨幣は、銅貨、銀貨、金貨があり、それぞれ単位が上がる事に100倍の価値となるようで、大人が1人1日過ごすのに銅貨5枚が必要となる。
「…さん、…ツ…さん、イツキさん!」
「は、はい!なんですか?」
「もー聞いてなかったんですか?イツキさんは魔法が使えないので仲間を募集してはどうですか?」
「仲間…ですか?」
「仲間です!例えばパーティーの盾となる重戦士や、遠隔系のアーチャー。ヒーラーとなる聖職者などバランスよくパーティーメンバーを揃えれば、イツキさんの助けになるはずです!」
確かにそうだ。これからも全てを1人でこなすのは無理だ。何より俺は魔法が使えない。回復薬も無くなる度に補充するのは金銭的に厳しい…となると回復役が欲しい。
ここは、思い切って仲間を募集してみる事にした。
「カイラさん!仲間の募集ってどうしたらいいんですか?」
「はい!掲示板に仲間募集の張り紙をしてください!ちなみに、掲載には銅貨5枚頂きます!」
うっ…お金取るのか…商売上手だ。だが、背に腹はかえられない!
俺は銅貨5枚を支払い、仲間募集の張り紙をしてもらった。
1日が過ぎ、2日が過ぎ、気づけば1週間が過ぎた。
誰も来ない!!
俺は机に突っ伏して涙を流していた。
やっぱり、俺みたいな新人の仲間になるなんて変わり者いるはずないか…もう張り紙を剥がそう…
「あ、あの…仲間まだ募集してますか…?」
張り紙に手を伸ばした時、1週間待ち望んだ言葉が聞こえ俺は振り向いた。
そこには長いブロンドの髪の美少女と青い髪のボーイッシュな美少女が立っていた。
「ま、まだ募集してるよ!!」
「良かったー!!僕はアーチャーのナタリア・ササール!ナタリーでいいよ!」
「わ、私は付与術が得意です。ソフィア・レンジリーです…ソフィーで大丈夫です…」
「ナタリー、ソフィー、よろしくね。俺はイツキ アイザワ。イツキでいいよ」
「イツキ アイザワ…イツキ様は…」
「様はいらないよ」
「イツキ…さん…は東の小国の出身なのですか?」
東の小国…日本のようなところがあるのか?事実を言っても混乱するだけか…
「まぁその辺の出身かな」
「イツキ遠いところから来たんだねー。なんでアグノリアに来たの?」
「ま、まぁ色々あってさ」
「ふーん…そうなんだ」
異世界から来たなんて言える訳がない…とりあえず、異世界から来たことは隠しておこう。
俺たちはお互いの力を見る為にコボルト狩りに来ていた。
「ナタリー!頼んだ!」
「任せて!!【トラッキングアロー】」
なんだ!?外れたはずの矢がコボルトを追従している。
ナタリーの放った矢はコボルトを追従し、コボルトの後頭部に刺さり、コボルトは力なく倒れた。
「イツキ!1匹行ったよ!」
「任せろ!よっ!と」
「えー…コボルトを素手で倒しちゃったよ…」
「凄いですね…イツキさん…」
何か少し引かれてる気がするけど…2人とも実力はすごいぞ。ナタリーは正確な狙撃に外しても追従するスキル持ち。ソフィーも靴に付与を施してくれたおかげで物凄く早く走れた。これは何としてもパーティーに入ってもらわなきゃ…
「あ、あの…もし良かったら正式にパーティーを組まないか?」
「もちろんだよ!ね!ソフィー!」
「は、はい!よろしくお願いしますイツキさん」
「2人ともこれからよろしくね」
2人と握手をしようとした時、何か巨大な物が動く音がした。
「なんだ!?この音」
「分からない!なんだろうこの音…」
「どこからしているんでしょうか…」
次の瞬間、ソフィーの背後に魔物が現れた。
ソフィーに腕を振り下ろしたが、間一髪の所でイツキはソフィーを助ける事が出来た。
「あ、ありがとうございます…」
「あ、いや…」
予想以上の顔の近さにイツキとソフィーは赤面していた。
「ちょっと!2人とも!イチャイチャしてないであの魔物をどうにかしなきゃ!」
「そ、そうだな!あの魔物はなんなんだ?」
「あれはゴーレムだよ!」
ゴーレム…俺が知っている某有名ゲームに出てくるようなゴーレムとは少し違うな…
「ゴーレムってこんなとこに出るのか!?」
「いえ…通常は遺跡にしか出現しない魔物のはずです…」
「それが何でこんなとこに…ゴーレムはどうすれば倒せるんだ!?」
「あいつの胸の中にあるコアを壊せば止まるはずだよ!」
「コアを壊す…あいつの体は何で出来てるんだ!?」
「え??えっと…岩だよ!岩で出来てる!」
岩…それなら簡単だ。あとはどうやって足止めをするかだ…
「よし、ナタリー!あいつの注意を引いてくれ!」
「わ、わかった!」
「ソフィーはあいつの足を凍らせてくれ!一瞬でいい!」
「や、やってみます!」
【トラッキングアロー】【フリーズ】
ナタリーとソフィーが足止めをしてくれている今だ!
大きな音と共にゴーレムの右足は崩れ落ち、ゴーレムの体は傾き、その影には拳を握るイツキの姿があった。
「え!?急にゴーレムの足が崩れた!?」
「ゴーレムの硬い体が……イツキ…さん…?」
崩れた足を再生しようと砕け散った破片がゴーレムに集まり出していた。
「イツキ!ゴーレムが再生しようとしてる!!」
「再生なんてするのか…早く終わらせるか。お前の弱点は内部のコアらしいな…遠慮なくやらせて貰うぞ【ワンインチパンチ】」
ゴーレムの体から僅か※1インチだけ離し放ったイツキの拳は硬い体を砕き、コアまでも粉砕した。
コアを粉砕されたゴーレムは再生する様子もなく崩れ去った。
「くっそおー!内部だけに浸透させれなかったかー!」
「いやいやいやいや!ゴーレムの体を拳で砕くなんておかしいって!」
「もしかして…足を砕いたのも、さっきのパンチなの…?」
ソフィーとナタリーは、拳一つでゴーレムを倒したイツキに興味津々といった様子で問い詰めていた。
「そうだ。俺は小さい頃から色んな武術をやってて、その技のうちの1つだよ」
「それでも、あんな硬い体砕くなんて…身体強化使えたの…?」
「いや、そんなの使えないよ。武術の中には部位鍛錬っていう肉体を武器化する修行があってさ、それをしてきたお陰で俺の拳や足はあれくらいじゃ屁でもないさ」
ソフィーやナタリーの常識からはかけ離れていたのか、2人は呆れたような表情になっていた。
「な、なんというか…イツキさんは色々規格外ですね…」
「コボルトも素手で倒してたし…イツキに常識って通用しないのかな…?」
俺は驚き呆れる2人をよそに、ゴーレム討伐は報酬がいいんじゃないかと、崩れ落ちたゴーレムの体を採取しギルドに帰る準備をしていた。
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