第8話 天国と地獄

アランが仲間に加わり1週間。

俺とアランは命の危機に瀕していた。


「イツキさん、アランさん、ご説明してもらえますか…?」


笑顔のはずのソフィーの目は一切笑ってなく、ナタリーは危険を察知したのか出かけて行った。


「どうするんだよアラン!」

「こんなはずじゃ無かったんだ…」


ソフィーに怒られパンツ1枚で正座をしている今から遡ること10時間ほど前。


俺とアランは、先日の報酬を受け取りに来ていた。


「マグワイアの時の報酬も入るし、パーッと遊ぼうぜイツキ!」

「遊ぶって言っても何すんだよ」

「男同士で遊ぶ場所なんて決まってるだろ…?」

「おい、まさか…」

「そのまさかだ。楽しもうぜ!」

「「ぐ、グヘ、グヘヘヘへへへへへへ」」


汚い笑い声をあげる俺たちにギルドマスターは諭すように釘を指した。


「お、お前ら、程々にしとかないとソフィー達に怒られるぞ……」


しかし、当然そんな忠告耳に入るはずはなく、俺はアランに連れられるまま、そのいい店に入った。そこはまさにユートピアで、エルフの綺麗なお姉さんや、ケモ耳のお姉さんなどさまざまな種族の綺麗なお姉さんが優しく向かい入れてくれた。


「いらっしゃい。あら?アランくんじゃない、今日は可愛らしいお友達も連れてるのね」

「イツキって言うんだ。こう見えてめちゃくちゃ強いんだぜ」

「君そんなに強いんだ!私惚れちゃうかもー」


ケモ耳のお姉さんは俺の腕に抱きつきながら話した。当然、俺はその豊満な胸の感触を肘で感じて楽しんでいた。


ここが、この場所こそ!俺が探し求めたユートピアだーーーー!!!!



俺とアランはすっかり時間を忘れ楽しんだ。当然忘れたのは時間だけでなく、財布の紐の存在も忘れさった。


「……それで、俺は言ってやったんだよ!お前らはその人を連れて行け!ってな」

「何言ってんだよ、その後やられそうなお前を助けただろ!」

「それもそうか、アッハッハッハッハッ!!」

「えー!2人ともかっこいいー!そんな、かっこいい2人にお願いー。もっとお酒(注1)頼んで欲しいなぁ」

「よーし、どんどん持ってこーい!!」

「いいぞー!イツキー!そうだそうだ!」

「金ならいくらでもあるぞー!!」

「「「きゃー!イツキくん、アランくん素敵ー!!」」」


こうして、楽しみまくった俺らは翌朝の閉店まで居座り、お金も全て使い切ってしまい朝帰りをソフィーに問いただされ今に至る。


「それで?どうして報酬の金貨150枚を使い切ったんですか…?それも、あんな場所で…別に怒ってないですよ?お2人は今回の依頼での功労者ですから…ですが、なぜあのような場所に行ったのか、なぜお金を使い切ったか気になるだけです…」


いつもの柔らかい雰囲気もどこか刺々しく、先日の魔人よりも恐怖を感じた。


「あ、あのなソフィー、俺はアランに言われて行っただけで…つい初めての場所でテンション上がっちゃったんだ!」

「お、おい、イツキ俺に全ての罪を擦り付けようとするな!」

「なるほど…イツキさんはアランさんに誘われて断れず行ってしまったと…」

「そ、そうなんだ!」

「イツキさんは優しい方ですから、断れなかったんでしょうね…」

「そうなんだよ!悪いのはアランなんだ!ソフィーは分かってくれると思ったよ!それじゃあ、俺は用事があるから…」

「イツキさん?どこに行くおつもりですか…?」


立ち上がり逃げようとする俺の襟元をソフィーは信じられない力で掴んだ。あまりにものすごい力で掴むため、俺の首は確実に締まっていた。


「そ、ソフィ…く、くるし…し、しぬ、」


泡を吹きながらタップする俺を見て、アランはこれからの事に恐怖し震えていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「今日はこのくらいにしておきます。お2人共、二度と!このような事がないようにして下さいね?」

「「す、すびまぜんでじだ…もうじまぜん…」」


俺とアランは3時間ほど説教をされた。

いつものソフィーから想像出来ない怖さに、俺とアランは涙を流しながら謝罪をした。


「それじゃあ、十分反省をしたと思うので私はギルドに行っていい依頼がないか見てきます」

「い、行ってらっしゃい…」


ソフィーが家を出たのを見守り、俺はアランと思しき何かに話しかけた。


「あ、アラン…?大丈夫か…?」

「あ、あはりまへだ…おへは、はいきょうのはへひはるおほこた…(当たり前だ、俺は最強の盾になる男だ)」


主犯のアランはソフィーに信じられないほど絞られ、先日最強の盾になる事を誓った男とは思えないほど震え上がり、ボコられていた。


イツキがボロボロのアランの手当をしていると、ノーランが訪ねてきた。


「イツキくん、いるかい??イツキくんの発案のウォシュレット、売れ行き最高だよ……って横の彼は誰だ!?」

「あ、アランです…」

「ほんひひは(こんにちは)」


おじさんは約束通り、ウォシュレットの売り上げの7割を渡しに来たようだ。


「……それじゃあ、イツキくん。これが約束の売り上げの7割。金貨1200枚だ」

「金貨1200枚!?そ、そんな大金受け取れないよ!!」

「何言ってんだよイツキ!くれるって言ってんだから今のうちに貰っとくんだよ!」

「ハッハッハ!!いいんだよ、イツキくん。イツキくんのウォシュレットのおかげでね、我が商会の売り上げは上々なんだよ。気にしなくてもこのくらいまたすぐに稼げるよ」

「そ、そこまで言うなら…ありがたく受け取らせてもらいます」


今日、おじさんが来たのはお金を渡すためだけでは無いようで、俺のアイディアはこの世界では一線を画すものだったらしく、こんなアイディアが浮かぶならまた是非製品化して売らせてくれとの交渉のためだった。


「俺なんかのアイディアが商品になっておじさんの助けになるなら」

「よろしく頼むよ、イツキくん。それとおじさんじゃなく、ノーランと呼んでくれ」

「わかりました。ノーランさん」


俺はノーランさんと握手を交わした。


「早速、アイディアがあるんだけど…」

「おお!!もうアイディアがあるとは…イツキくんは製品開発のプロだな!」

「製品開発のプロって…俺はアイディアだけだよ」

「おお、そうだったな。アッハッハッハッハッ!」


俺はノーランさんに扇風機を提案した。


「これはなんだい?」

「扇風機って言って羽根が回ると風が発生して、暑い日なんかだと気持ちいいんだ」

「ふむ…なるほど。なかなか面白そうな物だが、この羽根はどうやって動かすんだい…?」

「それは…付与魔法か何かで動かせない?」

「うーむ……羽根だけ動かすのは少し難しいなぁ」

「「どうしたものかーー」」


「なぁ、この羽根とかいうのないといけないのか?これ、そのまま風が出るように魔法を付与すればいいんじゃないか?」

「「それだーー!!!」」


日本でも羽根なし扇風機はあったけど動作音が大きくて敬遠されがちだったから忘れてた。この世界なら付与魔法があるから動作音も出ない。


「アラン、お前にしてはいい案だよ!それでいこう!」

「俺にしてはってなんだよ!ひどいなイツキ」


アランは俺に掴みかかり訴えた。


「まぁまぁ。だが、確かにそれならば可能だよ。今回はこの絵を元に一から作るから…そうだな、2日ほど待ってもらえるかい?」

「分かったよ。2日後にノーランさんのお店に行くよ」

「よし、そうと決まれば早速帰って製作だ!それじゃあイツキくん、アランくん、楽しみにしててくれ」


ノーランさんは新しい製品の売り上げが相当に楽しみなのかルンルンで帰って行き、俺とアランはノーランさんを見送った。


「ところでよ、イツキ…」

「なんだ?」

「金貨1200枚もあったらよ、少しくらいあの店で使っても……ん?なんだ?その顔」

「いや、うん。頑張れ」


俺はアランの後ろに鬼を見た。そして、その鬼はアランの肩をポンっと叩き話しかけた。


「何を言ってるんですか…?アランさん」

「ひっ……そ、その、これは冗談……で……」


鬼にバレたアランはブルブルと震え、許しを乞い始めたが、当然怒りが収まる気配はなかった。俺は懲りずに怒られるアランを呆れた顔で見つめていた。

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