第9話 国王からの招待

先日の扇風機が完成し、出来栄えは上々。売り上げも好調のようでお金の心配はとりあえず無くなったが、俺たちは村を襲うオーク討伐の依頼に来ていた。

今回、この依頼を受けた目的は報酬というよりもアランとの連携の確認をするためだ。

アランが加入してから4人で依頼を受けることは無く、今回初めての4人での依頼となった。


「そっちに行ったぞ!」

「よっしゃあ!【ビッグシールド】」


アランの【ビッグシールド】はその名の通り大きな盾のようなものが出現し、相手の攻撃を防ぐものだ。通常のビッグシールドであれば、さほど強力な技ではない。しかし、アランのビッグシールドは通常のビッグシールドよりはるかに強固なものとなっている。これはアランの持つ固有スキルに影響されるためらしい。


「3人とも、今だ!」

「【アイシクルシェド】」

「【サンダーアロー】……痺れてる今だよ!」

「おう!」


イツキが放ったトドメの拳でオークは力なく倒れた。


よし!連携も上手くいって倒せた!ソフィーやナタリーを守ってくれるアランが居ると戦いやすい。


「連携完璧だったな!……ってどうしたんだ?」


アランは引きつった表情をしており、ソフィーとナタリーはアランの肩に手を置いて同調するように頷いた。


「お前の規格外さに改めて驚いてるんだよ…魔人の時も思ったが、何食えば魔物を素手で倒せるんだよ」

「アランさん、慣れるしかありません…」

「そうだね…イツキがおかしいのは前からだし…」

「苦労したんだなお前たち…」

「おい!!俺がいつおかしかったんだよ!」

「「「ずっと」」」

「そんな口を揃えて言わんでも…」


ナタリーとアランはイツキの常人だと有り得ないエピソードを話し合っていた。


「イツキってばゴーレムをパンチで砕くんだよ!」

「ゴーレムをパンチで!?あいつの拳どうなってんだよ」

「ぶいたんれん?ていうのを長年やってるから大丈夫だって言ってたよ」

「なんだそれ…あいつ魔人も素手で倒したしおかしいよ…」


アラン達の悪ノリは最高潮でどんどんイツキの常人離れエピソードが出てきた。


「ふ、2人とも悪ノリが過ぎますよ!」

「俺はおかしくなんかない…」


自分は常人であると信じていたイツキは、涙を流しながらいじけていた。


「さて、イツキは置いといてギルドに報告しなきゃね」

「そうだな。イツキは置いて帰るか」


ギルドに戻り、クエストクリアの報告をし報酬を貰った。その間イツキはというと、少し後ろの方でずっとむくれた顔で拗ねていた。


「い、イツキさんどうかされたんですか?」

「ああ、気にしなくていいですよカイラさん。少し拗ねてるだけなんで」

「そうそう!素手で魔物を倒せるのはおかしいって認めないんだよ」

「2人とも、悪ノリはそこまでにしないと、イツキさんほんとに泣いてしまいますから…」


ソフィーがイツキの方に目をやると今にも泣き出しそうなほど目に涙をためていた。


「い、イツキさん。私たちはイツキさんがおかしいなんて全く思ってませんよ」

「全く?」

「はい。全く」

「1ミリも?」

「はい。1ミリも」

「じゃあ、素手で倒せてもおかしくない?」

「…………はい」

「なーぜ、顔を逸らすーー!!!」


どうやら、とても素直なソフィーには嘘をつくという事は出来ないようで、明らかに嘘と分かるほど顔を逸らした。


その日の夜、イツキは未だに拗ねていた。


「い、イツキさん機嫌を直してください…」

「機嫌ってなんの事だよソフィー。機嫌なんて悪くないよー?」


そう言うとイツキはナタリーとアランの方をチラッと見た。


「い、イツキ、僕たちが悪かったからさ機嫌直してよ」

「あ、ソフィー、これ食べるかー?」

「ほ、ほら、俺の肉あげるから機嫌直せよ」

「ソフィー、これもやるよー」


「もー!イツキー!何でもするから許してよー!」

「なんでも…?言ったな…?」


イツキは何か悪いことを思いついた笑みを浮かべた。


「それじゃあ、ナタリーは1ヶ月メイドの格好!アラン、お前は1ヶ月俺の掃除当番を代われ!」

「い、1ヶ月もメイドの格好!?」

「1ヶ月も掃除当番代わるなんて冗談だろ?イツキ」

「はぁ…傷ついたなぁ…」

「「や、やらせて頂きます…」」

「仕方ないなぁ!そこまで言うならやってもらおうかなぁ!あ、仕方ないから許してあげるよー」


いつかぶん殴る、アランとナタリーは心に誓った。


結局、イツキはソフィーに、1ヶ月メイドの格好というのはやりすぎだ、と言われ1週間家の中だけメイド服へと変わった。ちなみに、アランの1ヶ月雑用当番交代は減刑を促されなかった。


「な、なぁ、ソフィー?俺の雑用当番は何も言わないのか?」

「雑用当番?アランさんには丁度いいかと。まだ、あのお店に通っているようですし?」


まだ懲りずにあの店に通っていたらしいアランは、ソフィーの許しを乞う形で俺だけでなく全員の雑用当番を1ヶ月交代することになった。


このパーティーの『良心』ソフィーは、このパーティーである意味1番強いのかもしれない。



そんなこんなで翌日、イツキ達は突然ギルドマスターに呼ばれギルドを訪れていた。


「おお、来たか。お前たちに国王陛下から招待状が届いてな。どうやらマグワイアの件で礼を言いたいらしい」

「こ、国王から…?それって国王様に会うってことですか?」

「まぁ、そうなるな」


うわぁ……めんどくせえ…国王に対する礼儀作法なんて分からねぇよ……


「ああ、ちなみに国王陛下は獅子王と恐れられる方だ。くれぐれも粗相のないようにな」


なんだよそれ……絶対怖いタイプじゃん。余計に行きたくねぇよ……


「王都ならお店も沢山あるし行こうよ!」

「確かに王都ならこの街より取り揃えもいいし、お前も、そろそろその服じゃなくてちゃんと冒険者らしい服装に変えようぜ」

「何を言っているんだ。俺のこの服はとても動きやすくていいんだぞ!まぁ防御という点では心もとないが…」


ちょうど、転生した時のジャージのままじゃ心もとないと思っていた。いい機会だ、武器や防具を買うのもありか…


「仕方ない…少し面倒くさいが行くか!」


こうして、俺たちは王都へと向かうこととなった。


王都へは馬車で2日ほどかかるようで、俺たちは馬車に揺られながら、のんびりと王都への道のりを楽しんだ。

王都への森を抜ける途中、妙に硬くて大きいサソリに出会い、道の邪魔になっていたため倒したところ、もの凄く感謝をされたりもしながら王都へ到着した。

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