第7話 最強の盾
「やはり、お主らはこの私を疑い来た者。そして、それを持ち出されては少し困る。お主らにはここで死んでもらうぞ。クリフ諸共な」
「あらら…いつから気づいてた?」
「最初からに決まっておるだろう。何やらコソコソと探していることは気づいていた。少々泳がせてみたが少し目障りなのでな消させてもらう」
マグワイアが合図を送ると影からローブを着た男達が出てきた。数にしておよそ20人はいた。
恐らくこれがクリフの言っていた連中だろう、とイツキは察した。
「父上!このような事はお止め下さい!今ならば、まだ死罪にならずに済むやもしれません!今ならまだ引き返せます!」
クリフさんは、まだ自分の父のことを信じようとしているのだろう。その心にまだ良心が残っていると。だが、あの表情を見るに無理だ。あれは本気で消そうとしている顔だ。
「ちょっといいか?消すのはいいが、そんな人数で大丈夫か?」
「心配するな。外の連中を殺し、もう直ここに軍勢が来る。数にして100はくだらん」
「この人数を相手に100?もう少し手加減してくれてもいいんだが?」
「なに、相手は王国騎士団全力でいかねば失礼にあたるもの。遠慮などせんでいい」
まずいことになった。外にはソフィーとナタリーを含め4人。そして、屋敷にはまだ執事達がいる。外に出て執事達だけでも逃がさなければ…
「おい、俺が殿を務めるお前はクリフ様を連れてギルドに行け」
初めてこいつから話しかけたな…いや、今はそんな事考えている場合じゃない。
「お前1人でこの人数を相手に殿?できるのか?」
「俺は王国騎士団の盾だ。この程度の人数なんともない。いけ!」
アランの合図と共に俺はクリフさんを連れて屋敷の外に出た。
「ソフィー、ナタリー!こっちだ!」
敵に詰め寄られる2人を連れ、手薄になっている所を突き、包囲網を抜ける事が出来た。
「まだ騎士団の方が!」
「クリフさんをギルドに連れて行ったらすぐに戻る!今はクリフさんを無事保護することを考えるんだ!」
「は、はい!」
俺たちは全力で走りギルドへと戻り、事の経緯を全て話した。
「なるほど…つまりマグワイアの野郎はとんでもねぇ悪だってことだ」
「そうなりますね」
「よし、俺の方から騎士団には連絡を入れる。お前らはすぐにマグワイアの屋敷に戻って王国騎士団が来るまで持ちこたえてくれ。クリフさんは一度ギルドで保護をする」
「分かりました」
マグワイアの屋敷では、アランが1人奮闘していた。
「なかなか粘る…さすが王国騎士と言ったところか。だが、もう限界だろう。お前を殺し、逃げた奴らも捕らえる」
「俺はお前にやられない。お前が見捨てたカカル村のみんなの為にも…」
「カカル村…?なんだその村は」
「お前は自分が見捨てた村も覚えてないのか…?」
アランは怒りに身を任せグラハムに襲いかかった。しかし、マグワイアの横に立っていたリーダ格らしきローブに取り押さえられた。
「おいおい、弱いくせにイキがるなよ」
「離しやがれ!お前だけは俺が!!」
「ああ、カカル村思い出したぞ。魔物に襲われたあの村か……なに、あの村は私への上納金が滞っていてな。そんな村救う価値もなかっただけのこと」
「このクソ野郎…お前だけは殺してやる…」
「状況を見てからものを言え愚か者。……殺れ」
ローブの男は、アランに向け剣を振り下ろし刃がアランの首に触れる直前、ローブの男は突然吹っ飛んだ。
「おー無事か?」
「お前…なんで戻って来た…」
「なんでって…依頼だしな。それに、あいつは俺の仲間を狙った。そんなやつ野放しにできないからな。お前もあいつに借りがあるんだろ?」
「おい、話してるとこ悪いが…あの程度でくたばったと思うなよ?」
崩れた壁の向こうからローブの男が戻って来た。所々破れたローブの下からは人間とは思えない色の皮膚が見え、額からは角らしきものが見えていた。
「ああ、あれくらいで終わったら面白くないからな。……ところでお前人間じゃないのか?」
「人間?俺がそんなに下等な生物なわけが無かろう。俺は魔人だ、お前ら下等な人間とは格が違う」
そう言うと魔人は来ているローブの下の姿を表した。
魔人…異世界転生系にありがちな悪役って感じか…
「で、その魔人様がなんでこんなところに居るんだ?」
「こいつの願いを叶えてやるためだ。まぁもちろん、見返りにこの王国の情報を貰っているんだがな」
「なんのために?」
「魔王様のためだ」
なるほど…いわゆる世界征服的なあれか…関わりたくは無いが止めない訳にもいかないか…
「それを聞いたら止めない訳にはいかないか…」
「止める?お前が如きが俺を?」
「ああ、問題ないだろ。お前ごとき」
「実力差が分からないらしいな。楽しんでから殺そうと思ったが、興が冷めた。一撃で殺す【デスクロー】」
「それで突かれたら死ぬかもしれんな」
「怖気づいたか、だが今更遅い!」
「勘違いするな。突かれたらの話だ」
イツキは魔人の突きを避け、腹に膝蹴りを入れた。膝蹴りを喰らった魔人は天井を突き破るほど高く吹き飛び落ちてきた。
「馬鹿な…なぜだ!」
「なぜも何も俺を突くなら直線で動く方が早いからな。俺はそれを予測したまでだ。…にしてもお前頑丈だな」
「な、何をしている!早くそいつを殺さないか!」
「な、なかなかやるようだな。だが、これならどうだヘル……」
【
魔人が魔法を唱えようとした瞬間、イツキは一瞬にして距離を詰め殴り飛ばした
「なんだ、あいつの動き。見た事がない…それに今一瞬で間合いを詰めたような…」
「ああ、縮地って言うんだ。俺の国にある歩法なんだ」
「有り得ん!こんな事有り得るはずがない!!!」
魔人は怒りに身を任せ攻撃を仕掛けた。怒りによりパワーが上がり、避ける度に後ろの壁にまで衝撃波が届くほどになっていた。しかし、怒りに身を任せたことで逆に動きが単調となり、容易くイツキにいなされていた。
「なぜだ、なぜ当たらん!」
「その程度のことも分からないようじゃお前、強くないだろ?諦めたらどうだ」
「この俺様に諦めろだと?クックック…ハッハッハ!!イキがるのも今のうちだ。外には100を越える仲間が居るお前1人に何が出来る!」
「ああ、それな。多分もう意味ないと思うぞ」
強烈な光と共に爆発音が響き渡った。
「やあ、イツキくん。待たせたね、外の奴らは全員倒した。後はそいつだけだよ」
「お、お前は…マーシャル・フォード!!なぜやつがここに…」
「なぜも何もマーシャルさんは王国騎士団団長だ。来ても不思議じゃないだろ?」
「な、何をしておる!魔人!早く殺さぬか!!」
「遅せぇよ」
長年に渡る部位鍛錬によって鋼鉄をも砕くイツキの手は魔人の心臓部に突き刺さっていた。
「こ、この俺が殺られるとはな…だが、魔王様は動き出した。お前が殺されるのも時間の問題だ…それまで地獄で待ってるぜ…」
捨て台詞を言い終わると魔人は灰へと変わった。
「く、クソ!!役立たずめ!こ、こうなれば、ゴーレムを…」
「そこまでです!」
「お、お前は!!」
マグワイアの後ろにはソフィーとナタリーが立っており、ナタリーはマグワイアに向け弓を構えていた。
「お久しぶりです、グラハム・マグワイア伯爵。魔人が居ない今、あなたにはゴーレムを召喚することはできないはずです。改めて私の口から申し上げます。あなたとの婚約は致しません。そして、あなたの蛮行もここで終わりです!!」
「そ、そんな…私は…私はいずれこの王国の支配者になるはず……」
自分の終わりを感じ取ったのか、マグワイアは壊れた様子で崩れ落ちた。
「すまないな。お前にあいつを殴らせてやりたかったが…」
「今のあいつを殴っても価値は無い。気にするな」
「蛮族グラハム・マグワイア!貴様を拘束し、伯爵の称号を剥奪する!!」
マグワイアは王国騎士団に捉えられた。マーシャさんの話では、極刑は免れないだろうとの事だ。マグワイア家は責任を取り、一族の爵位も剥奪となるはずだったが、クリフさんには何の非も無いため一族の爵位剥奪は見送られた。そして、新しい領主は息子のクリフ・マグワイアに決まった。クリフさんは、後に王国一の領主として民衆に称えられることとなるが、それはまた別の機会に…
「みんな、俺みんなの仇とれたよ……」
アランは地面に立てられた墓石らしきものに語りかけていた。
「何しに来たんだ?」
「マーシャルさんに居そうな場所を聞いたんだ。ここがお前の故郷か?」
「そうだ。もう見る影もないけどな」
「……綺麗な場所だな」
「そうだろ?俺はここからの景色が好きだったんた。村のみんなの楽しそうな笑い声が今でも聞こえてくる…」
村のあった場所を見つめるアランはどこか寂しそうな顔をしていた。
「そういえば、なんで最初俺の事を無視してたんだ?」
「そ、それは、俺は男だらけの騎士団で頑張ってんのにお前はあんな可愛い子達と楽しく冒険者やってるのが妬ましくてな…」
「それだけで?」
「それだけとは何だ!俺は妬ましくて妬ましくて…」
「す、すまん…」
ち、血涙を流してやがる……そんなに羨ましかったのか…
「そ、それは置いといてだ。お前のおかげで助かった。イツキ、お前さえ良ければのパーティに入れてくれないか?」
「仲間って…騎士団はいいのか?」
「団長には許可を貰っている。もちろん、お前さえ良ければだが…」
俺さえ良ければ…か
「そんなの良いに決まってるだろ。よろしく頼むよアラン」
「ああ、よろしく頼む」
「イツキ、俺はお前に一度救われたこの命お前に預ける」
握手を交わすとアランは口上を述べ始めた。
「俺は頑丈だけが取り柄だ。だから誓おう。俺はお前を、お前達を守る最強の盾となる事を」
「最強の盾か…いい目標だな」
こうして、俺たちのパーティーにアランが加わった。より一層楽しく、騒がしい毎日がまた始まる。
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