第6話 領主の悪事
「本日よりマグワイア伯爵の警護を仰せつかりました、王国騎士団分隊長のイツキでございます!」
「おお、待っておったぞ。私はマグワイア伯爵だ。私の警護頼んだぞ」
このおっさんがマグワイア伯爵か…なんつーか貴族って割には小汚いおっさんだな。こんなのに求婚されるなんてソフィーも可哀想だ。
「マグワイア様のお傍は私とアランが護衛させて頂きます」
「ふむ…お主らが私の傍で…そちらの女騎士が傍で構わぬのだが」
何がそちらの女騎士で構わぬだ、この変態タヌキ!てめぇは俺らで十分なんだよ!
「いえ、マグワイア様に何かあってはいけません!ここは私達にお任せ下さい!」
「そ、そうか…それならばお前達に頼む」
「お任せ下さい」
こうしてマグワイアの警護…もとい、調査を開始した。だが……失敗したー!何も考えないでアランと警護する事にしちまった!気まずい!さっきからこっち見て舌打ちするし…なんだよ、俺何かしたか?
「あ、アランさん?俺何かしました?」
「……」
「無視ですか……」
え、俺ほんとに何した?何もしてなくないか?え??なんでだ??そもそも昨日初めましてだよな?はあ…何なんだよ。
「ちょ、調査頑張りましょうねー」
「……チッ」
舌打ちされたよ…なんなんだよほんとに!!
もういいや、無理に仲良くならなくて…
とりあえず、マグワイアが寝静まった後しか調査ができないこの状況。なかなか調査が進まねぇ。
「ソフィー達の方はどうだ?何か怪しいやついたか?」
俺たちはマグワイアが寝静まった後に毎日集まって報告会をしている。
「特に怪しそうな人は見かけませんでした」
「僕も特に見かけなかったよー」
「俺たちの方も特に怪しい者は見なかった」
「まぁそうだよなー。部屋もだいたい調べたし…後はマグワイアの部屋か」
俺はマグワイアが寝静まった後に部屋を調べた。
やはりというか、何も証拠は出てこなかった。冷静に考えれば見つかる可能性のある屋敷に証拠となるものを置くはずがない。ここに来て行き詰まった…
次の日、護衛のフリをしつつ悩んでいるとマグワイアの執事が尋ねてきた。
「騎士様。ご相談をしたい事がありまして」
「な、なんでしょうか?」
マグワイアを疑い調査している事がバレたのか?自分の主人を疑っている騎士なんて1秒でも早く追い出したいはずだ…なんて誤魔化すか。
「どうか、クリフ様をお助け下さい」
クリフ・マグワイア。この悪徳領主の息子だ。その息子を助けてくれとはどういうことだ?
「助けてくれとはどういう事ですか?」
「はい。クリフ様はこの街でも評判のとても素晴らしい人格の持ち主です。そのクリフ様は偶然、お父上…グラハム様の悪事を知ってしまわれ、その悪事を止めるべく奔走しておりました。最初はグラハム様も気にもとめない様子でしたが、徐々にクリフ様が力を付けるとグラハム様は地下へと幽閉されました」
「幽閉…?地下ってこの屋敷ですか?」
「はい、地下のことは屋敷の一部の者にしか知らされておりません。そして、その地下には騎士様がお探しになられている物がきっとございます」
「探している物って…」
「はい。ゴーレムに関する物でございます」
思わぬ収穫だ。つまり、その息子を助ける事で俺らはゴーレムの証拠が手に入る。なかなかに面倒くさいがやるしか無いか…
「という訳だ。俺が地下に潜ってその息子を助けて証拠も手に入れる。ソフィーとナタリーはいつも通りに振舞ってくれ」
「待て! 俺も地下に行く。お前なんかに任せてられない」
初めてこいつの声を聞いたよ…にしても対抗してくるなんて…そんなに俺に手柄取られるのが嫌なのか?
「あ、ああ、わかった。2人ともそれでいいか?」
「僕はいいよ!」
「私は……私も大丈夫です。イツキさんお気をつけて」
マグワイアが寝静まったあと、クリフ救出並びに証拠を抑えるために行動を開始した。
「こんな仕掛けがあったのか…分かるはずないよ」
「騎士様。ここから地下へと行けます。どうか、クリフ様をよろしくお願いします。お気をつけください」
執事が書斎の本棚から赤い背表紙の本を抜くと本棚が動き地下への階段が現れ、見送りをする彼は頭を深々と下げていた。
「任せてください。必ず助けます」
「……フン」
こいつはなぜ執事さんにまでそんな態度なんだ…
呆れつつも階段を下っていくと牢屋が現れ、その中に人影が見えた。
「誰だ!」
「えっと、クリフ…様ですか?」
「君たちは…」
「王国騎士団から派遣され来ましたイツキです。こっちはアランといいます」
長い間この牢に入れられているのか服は汚れ貴族とは思えないほどみすぼらしい姿にはなっているものの、食事だけは与えられているようでやつれている様子はなかった。
「王国騎士が何故ここに…?」
「……お父上、マグワイア伯爵にはゴーレムを使い王国を襲った疑いがかけられています。今回はその調査の関連でクリフ様の事を知り助けに来ました」
「父がそんな事までも…」
「一先ずクリフ様、ここを出ましょう」
「出ると言ってもここの鍵の場所は父しか知らない。出ることは出来ない」
「大丈夫です。任せてください」
イツキは拳を握ると鬼のような連打で牢屋の扉を殴り扉を破壊した。
「ふぅー」
「いや…ふぅって…」
アランとクリフは人間って鉄を殴って壊せるんだ…と引いていた。
「あ、ありがとう、イツキくん」
「いえ。それで、マグワイア伯爵がゴーレムを召喚した証拠が欲しいのですが、なにか分かりませんか?」
「恐らく、この先に何かあるはずだ。父はこの先に何やら見知らぬローブを被った連中と向かっていた。父にはゴーレムを召喚するような力は無い。つまり、そのローブの連中がゴーレムを召喚したはず……」
「この先……行ってみましょう」
随分暗く足場の悪い道を進んだ先に、大きな広場があった。机の上には魔法陣が描かれ、事前にマーシャルさんに教えてもらったゴーレムに入っていたコアと思われるものも転がっていた。それだけでなく、壁に張られている地図には、これからゴーレムに襲わせると思しき場所に印が付けられていた。
「これは、立派な証拠だな…一先ず、この証拠を持って出ましょう」
ふと、アランの方に視線をやると地図を鬼のような目で見つめ拳を握っていた。
俺らは証拠を持ち、クリフさんと一緒に屋敷を出ようと扉に手を伸ばした時、あの伯爵の声が聞こえた。
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