第16話 炎王竜との邂逅

「とても綺麗な森ですね……」

「そうだな…」


 プラチナランク冒険者でさえ入るのを拒む森。

 それは、人の手が加えられていないことを意味する。

 この森は人の手が一切加わっていないおかげか、豊かな自然に綺麗な水の流れる沢があった。


「にしても、全然魔物出てこないな」

「ほんとほんと、緊張して損しちゃったよ」

「2人とも、油断しないでください。ここはクノンルデア森林、数多の冒険者の夢を砕いた場所。警戒するに越したことはありません」

「わ、分かってるよ…」


 流石はソフィーだ。

 思った以上に魔物が出てこなく、緩んだ空気を引き締めてくれた。


「とは言ったものの、どうして出てこないんでしょうか……」


 この森に入ってからずっと感じる強い気配。

 恐らくこのせいで魔物が襲って来ない……いや、襲って来れないと言った方が正しいか。

 そして、気になる事がもう1つあるが……

 変に脅かさない方がいいか…


「さぁ、なんでだろうな。でも、ソフィーの言う通り警戒したに越したことはないな」


 とにかく、先を目指してどんどん行こう。


「い、イツキ様!少し、ペースが早くて…もう少しゆっくりでお願いできますか?」


 アリシア王女は息を切らしながらついて来ていた。


 先程から静かだとは思っていたけど、ペースが早すぎたのか…

 まぁ、王女様だから体力まではないか。

 ちょうど暗くなってきたところだし今日はこの辺でいいかな……


「よし、それじゃあ今日はこの辺で野宿するか」

「こ、こんな所で野宿って危険じゃありませんか?」

「あー、確かに何も無ければ危険だけど……」

「お、あれだな!ちょっと待ってろ」


 アランは徐ろに荷物を漁り、魔道具を取りだした。


「それは、魔道具……ですか?」

「その通り。これはノーランさん…ブライトン商会で譲ってもらった認識阻害の魔道具です」


 認識阻害の魔道具。

 効果は半径20メートルに及び、範囲内に居る者への認識を阻害する効果を持つ。

 この魔道具は、とても高価な物で本来王国騎士団や貴族の護衛など限られた者しか持っておらず、ただの冒険者が持つことは少ない。


「そのように高価なものをブライトン商会から譲り受けた……ノーラン・ブライトンとはどのようなご関係なのですか?」

「ノーランさんは俺がアグノリアに行く前に助けたことがあって、それ以来よくしてもらってるんです。その時は、まさかこんなに凄い人なんて思わなかったんですけど……」

「イツキ様は身分など関係なく、誰であっても助けるのですね」


 アリシア王女は優しく微笑み呟いた。


 その日の夜、アリシア王女は俺らの冒険者としての冒険譚を熱心に聞いていた。

 魔人との戦い、様々な依頼を達成し、まさかの大きな屋敷を手に入れた話まで。

 話を聞いているアリシア王女の目はとても輝いていた。


 そして、夜が明けた。


 俺たちは改めて気合いを入れ直し、光の魔術師が住む最奥部に向け歩みを進めた。


「おい、こっちで合ってるのか?」

「知らん。が、真っ直ぐ行けば1番奥に行けるだろ」

「おいおい、そんなので大丈夫か?」

「イツキってたまに適当になるよねー」


 こんな森で方向が分かりゃ苦労しねぇよ……と苦笑いをしながら歩いていた俺らの目の前に現れたのは予想だにしないものだった。


 目を瞑り眠りにつく大きな体。

 赤い鱗に大きく鋭い牙に爪、そしてその背中には大きな翼。

 その姿は正しくドラゴンそのものだった。


 この森に入ってから感じていた強い気配。

 こいつかと思ったが、こいつからはそんな感じはしない……


「あ、あれは炎王竜バルハード!?!?」

「炎王竜……?」

「世界に8体のみ存在する竜の王です」


 この世界には、炎王竜、水王竜、氷王竜、風王竜、雷王竜、土え王竜、光王竜、闇王竜の8体の王竜が存在する。

 それぞれ、炎、水、氷、風、雷、土、光、闇の竜種を束ねるドラゴンの王である。


「8体の王竜の中でも、炎王竜は別格の強さを誇り、かつて幾つもの国を滅ぼしたと言い伝えられています」

「その炎王龍ってのはこんなところにいるものなのか?」

「いえ、本来は火山の火口に住むはずです」


 そんなドラゴンがなぜこんな所にいるんだ…?

 それに、そんなドラゴンなら強い気配を感じないのは何故なんだ……?


「まだ、俺らに気づいてないみたいだし今のうちに戻ろうぜ」

「そ、そうだね、こんなのと戦ったら死んじゃうよ」


 確かに、今はこんなのと戦っている場合じゃない。

 寝ている今なら都合がいい、このまま静かに戻らせてもらおう。


 パキッ!!


 静かに後退していた5人だったが、アリシア王女が不運にも枝を踏み折った音が響き渡り、炎王龍は目を覚ました。


「や、やばいよ、目覚ましちゃったよ!」

「クソ!戦うしかないのか!?」

「すみません!わたくしの不注意で!」


 ゆっくりと口を開き炎王竜は静かに語りかけてきた。それはイツキにしか分からない、日本の言葉であった。


『何者だ。我の眠りを妨げる者は』


 日本語……!?なぜこの世界で、それもドラゴンが日本語を使うんだ?


『す、すまない!起こすつもりはなかったんだ!俺らはこの森に住むという光の魔術師に用があるんだ』

『あの魔女にか……なんの用かは知らぬが、我に危害を加えるつもりならばここで消すぞ』

『危害なんて加えるつもりないよ。ただここを偶然通っただけなんだ』

『ふむ。ならばさっさと通るがいい』

『ありがとう!最後に一つだけ質問させてくれ、なんでお前がこの言葉…日本語を知ってるんだ?』

『これは日本語と言うのか…これは、かつて我の友であった勇者から学んだ言葉。それ以上は何も知らぬ』


 勇者…勇者の名はアグノリアとか言ったな。そんな奴が日本語を……俺みたいにこの世界に転生した人間に教わったのか?


『そうか、ありがとう!すまないが通らせてもらう!』

「みんな、どうやらこのドラゴンは危害を加えないなら何もするつもりは無いらしいから、通らせてもらおう」


 ドラゴンとの会話の内容を伝えたが、全員の目は点になっていた。


「な、なんでお前ドラゴンと会話してんだ?」

「イツキ、あの言葉分かったの?」

「イツキさん…」

「イツキ様…」


 しまった……!日本語だったからつい話してしまったが、この世界では完全に道の言葉。それを俺が話したとなったらこんな顔もするはずだ……


「い、いやぁ、なんかノリで話せちゃった…てへっ」

「「「「てへっ、じゃあない!!!!」」」」


 全員から総ツッコミを受け、質問攻めにあったがそれとなくはぐらかし、先を急ぐことにした。


 それにしても…このドラゴン何かを守るように寝ているな。

 なにか大事な物でもあるのか?


 通り抜けようとしたその時、イツキは強い気配を感じ全員に指示を出した。


「みんな!敵だ!構えろ!!」


 人とも魔人とも違う。

 どちらかというとこのドラゴンと近い気配の人間がそこには立っていた。


 果たして、こいつに敵意があるかどうか……

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