第21話 もう1つの世界

「それじゃあ、俺らはこれで」

「イツキ殿、くれぐれもアリシアを頼む」

「え、ええ、分かってます」


 娘と離れるのが不安なのか、アルベルト王は俺に何度も頼んでいた。


「アリシア、しっかりね」

「はい、お母様」

「イツキくんが気になるならしっかりとね」

「お、お母様!!」


 ビューラ王妃が何やら耳打ちをした後、アリシアは顔を赤らめ怒っていた。


「此度の件本当に感謝する。道中気をつけてくれ」

「「「「はい!!!」」」」


 ここから俺らは再び2日ほどかけ、アグノリアへと帰った。

 道中、王都での疲れが一気に出たのか俺ら全員、深い眠りについていた。

 特に、アリシアはビューラ王妃の看病でしばらく寝ていなかったのか、この2日ほとんど起きることなく馬車に揺られていた。



「ここが、俺らの拠点……というか、家だ」

「ここが……なんというか、意外と小さいのですね」

「ち、小さいて……」


 流石にこの国の王女様……

 庭付きでこの街でもかなり大きい部類に入る俺らの家を小さいか。

 まぁ、王城が家だったアリシアにしてみれば、どんな家でも小さく見えるはずか……


「ま、まぁ、わたし達の家は冒険者にしては大きいんですよ?」

「まぁ、確かに……アリシアのお城には負けちゃうけどねー」

「まぁ、王女様と比べても意味ねぇよ」

「あ、アハハ……」


 この分だと、アリシアは相当な世間知らずだな……

 ということは、しばらくは庶民の暮らしに慣れてもらう必要があるな。


 家に入ると、ナタリーとソフィーは家中をアリシアに案内し始めた。

 王城に住んでいたアリシアには全てが小さく見えたはずだが、それでも初めて親元を離れたアリシアにとっては全てが新鮮で目新しいのか、目を輝かせ案内を受けていた。


 その日は、アリシアの歓迎会を行うためにみんなでご馳走を作りパーティーを行った。


 料理担当は俺とソフィー、食材調達はアラン。

 そして、家の飾り付けはナタリーとアリシアが行った。

 というより、俺とソフィー以外が料理をするとキッチンが大惨事になったので、強制的に違う役割を押し付けた。


「イツキさん、料理も出来たのですね」

「ああ、結構俺が作ることが多かったからな……作ってるうちに勝手にな」

「……いつか、イツキさんの世界の料理を食べてみたいですね」

「んー……そうだなぁ、それじゃあ作るか!」

「本当ですか!!」


 ソフィーの笑顔はやっぱり可愛い……

 いや、ソフィーの笑顔見たさじゃないし……俺自身、日本の料理食べたくなってたし?

 うん、決してソフィーが可愛かったからではない!


「おい、アラン!これ買ってきてくれ!」

「おー、わかった!待ってろ」


 こうして、俺はソフィー達に俺の世界……というか日本の料理を振る舞うことにした。


「うっまーー!!!」

「おいしいーー!!」

「本当に美味しいです!」

「城の料理人よりも美味しいです……!」


 ソフィー達が喜び食べているのは、天ぷら。

 これなら油で揚げるだけで特に調味料は必要ない、食べる時も塩を少しかければ十分美味しく食べれる。

 なにより、この世界でもすぐに作れる。


「これ、なんて食べ物なんだ!?」

「ああ、これは天ぷらっていって俺の世界の料理だよ」

「天ぷら!!これは天ぷらっていうのか!」


 みんなにハマっているようだが、特に男のアランにハマったようだった。


 天ぷらは揚げ物だからな……女子には少し重たかったかな。


「とても美味しいんですけど、わたしは沢山は食べられないですね」

「そうですね……わたくしも沢山は」

「そう?僕は食べられちゃうなー」


 訂正、ナタリーだけはアランと同じで食い意地張ってるんだった。

 な、なんか、めっさモサモサ食っとる…リスみたいに……


「皆さん……わたくしの為に歓迎会を催してくれ、ありがとうございます」


 アリシアは立ち上がり、頭を下げ礼を述べた。


「いいって、仲間になったんだ歓迎会くらいしなきゃな」

「そうですね。仲間になったんですし、遠慮はしないでください」


 ソフィーは誰にでも気遣い出来ていい子だなぁ。


「ほーだよー!(そーだよ!)ひんな、やはひいよ!(みんな、やさしいよ!)」

「そうそう、なによりアリシアが仲間になったおかげで、こんな美味いもん食えてるしな」


 お、お前らは飯から離れろよ……


「ありがとうございます」


 笑顔のアリシアは、思わず目を逸らしてしまうほど美しく輝いて見えた。

 アリシアの歓迎会は夜空が少し明るくなる頃まで続き、そのまま、楽しみ疲れ眠りについた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ええ!ウォシュレットを開発したのイツキ様なのですか!?」

「そうなんだよー!イツキ凄いよね!」

「この、扇風機?というのもイツキ様が?」

「ああ、それもだよ。今思えば、これイツキの世界の物だったりするのかな……?」


 王都から新たに仲間になったアリシアと共に拠点に戻り数日、アリシアは王国で大流行しているウォシュレットの開発者がイツキであり、新たな商品の扇風機までも手懸けたことに興味津々といった様子だった。


「その通り。ウォシュレットも扇風機も俺の世界の物を作ってもらったんだ」

「イツキ様の世界はこんなに便利な物で溢れているんですか!?」

「まぁ、そうだな。この世界よりは便利な物が多いかな?魔法なんかはないけど」

「魔法がないのに、こんな便利な物があるんですか!?」

「そうだな、色々あるよ」

「ど、どんなのがあるの!イツキ!!」

「わ、わたしも興味があります!」

「俺も!!」

「わ、わたくしも!」


 みんな、興味があるようで一様に目を輝かせ俺の世界について聞いてきた。

 俺は、みんなに俺の世界のことを俺が分かる範囲で伝えた。

 俺の世界には争い事が無いこと、この世界のように魔物はいないこと、電車や飛行機、テレビのことや電話のこと。


「す、すっげぇー!!!俺、空飛ぶ鉄の箱に乗ってみたい!」

「僕は、お湯を入れるだけで食べられる、カップめん?っての食べてみたい!!」

「わたしは、お父様やお母様の声を聞ける電話というのを使ってみたいです」

「わ、わたくしは、マンガというのを読んでみたいです」


 みんな俺の世界の物に興味があり、それぞれが気になった物について話し合っていた。


「でもよ、その空飛ぶ箱とか箱の中の絵が動いたり、声が聞こえたりするの魔法がないのにどうやってんだ?」

「えっと、詳しいことは分からないんだけど、電気とか科学の力のおかげで……」

「電気はともかく……かがく……?」


 魔法があるこの世界には科学なんて必要ないから分からないか……


「科学ってのはなんて言うか……えーっと……」


 無理だ。

 ど文系だった俺に科学のなんたるか、なんて語れん。


「ま、まぁ、俺の世界での魔法みたいなもんだよ」

「へぇー、魔法は無いのに魔法みたいなのはあるのか……不思議なもんだな」


 まぁ、嘘はついてないよな……

 こっちの世界からしたら、鉄の塊が人乗せて飛んだりする事の方が魔法みたいなもんだよな。


 この日は1日、俺の世界の事についてみんなで語り合った。

 みんなが気になること、知りたいこと、俺の話せる範囲……というか俺の頭で分かる範囲のことを全て。

 話し疲れて眠るまで……

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