第32話 逸話の真実

「ここが、長老の家だ」


 そう言うと、ソウレンは扉を叩いた。


「長老!ソウレンです。長老と話しをしたいという者達を連れて参りました」


 ソウレンが呼びかけると、給仕のような格好をした鬼人族の女性が扉を開けた。


「長老は中でお待ちです」


 女性に案内されるがまま、イツキ達は家の中へと入り長老の居る部屋の前まで通された。


「ソウレンです」

「……入れ」


 襖を開けると、長老と言うには若く、逞しい肉体を持った鬼人族の男が座っていた。


「この村の長老をしているユウレンだ」

「イツキ・アイザワです。こっちは仲間のソフィー、ナタリー、アラン、最後にエリノアです」

「……エリノア?今エリノアと言ったのか?」

「は、はい。こちらの女性がエリノアと言います」


 イツキが改めてエリノアを紹介すると、ユウレンは目を見開き驚いていた。


「ま、まさか、エリノア様ですか……?」

「久しいな、ユウレン。あんなに小さかった子がこれ程たくましくなるとはな……」

「それもこれも、エリノア様や勇者様のおかげです」


 どうやら、過去に俺のじいちゃんとエリノアさんに会ったことがあったらしく、ユウレンは感動した様子でエリノアとの再会を喜んでいた。


「エリノア様はあの時から何も変わらないご様子で」

「ああ、お前も元気だったか?」

「もちろんでございます」

「あ、あのー……」

「ああ、すまない。それで、私に用だと言ったな?どのような要件だ」


 俺はユウレンさんに、村に伝わる逸話のこと、そして、その逸話に俺が違和感を覚えたことを伝えた。


「なるほど……あの村でそんな逸話が……」

「俺らは、この話は村長の先祖があの村のトップに立ち続けるために作った話ではないかと考えています。あの話にあった、1人で大軍に立ち向かった青年。それは、鬼人族なのではないですか?」

「…………確かに。昔、あの場所に我ら鬼人族は村を形成し住んでいた」


 ユウレンさんは静かに目を閉じ、自身の知る限りの事を話した。

 あの村は、かつては鬼人族の土地であったこと。

 あの土地の豊かさに目をつけた人間が、鬼人族を襲いあの土地を奪い取ったこと。

 その際に、1人の鬼人族の青年が最後まで抵抗したこと。

 力及ばず倒れたものの、一命を取り留め生き残った極小数の仲間と共にこの場所へ隠れ住むことになったこと。


「そんな事が……」

「ひどいよ!」

「同じ人間として恥ずかしいです……」


 ソフィー達は、鬼人族に対して同じ人間が行った事を恥に思い、憤慨していた。


「その、青年というのが」

「お察しの通り、この私だ」

「では、ソウレンさんが村の女性を助けようとした際に襲われたのは」

「恐らく、真実を隠し通すためだろう」


 つまり、あの村に伝わる話は真っ赤な嘘で、実際は昔、ユウレンさんが襲ってきた人間から村を守るために1人立ち向かった、という事だ。

 そして、恐らくその土地に目をつけ襲ってきたという人間。

 それを指揮していたのが村長の先祖、ということになる。


「どうするんだ?イツキ」

「村に戻り、村長を捕まえる。それしかないだろう」

「だな……」


 真実を知ることが出来た俺らは村に戻り、村長を取り押さえることにした。

 だが、1つ気になる事があった俺は、ユウレンさんに尋ねた。


「すみません、最後に1つだけ。なぜ、過去にそのようなことがあったにも関わらず、ソウレンさんは人間を助けようと?」

「それは、私が悪い人間は極々1部であり、そのほとんどが心優しき者たちであると常々言い聞かせてきたからだろう。もちろん、私もエリノア様や勇者様に出会って居なければ、そのような考えを持つことは無かったが」

「ふっ……そういうことだ。わたしに感謝していいぞ」


 誇らしげに胸を張るエリノアさんを無視し、改めてサイハク村に戻ることにした。


「エリノアさん、今はいいんで転移魔法お願いします」

「……お前、わたしの扱いが雑だぞ」


 雑な扱いに少し不満そうにしつつも、エリノアは転移魔法を発動し、サイハク村まで繋げた。


「それじゃあ、俺達はこれで。ありがとうございました!」

「待ってくれ、あの村へ行くというのなら俺も連れて行ってくれ」

「……分かりました。それじゃあ一緒に行きましょう」


 ソウレンと共にポータルを潜り、サイハク村へと戻ったイツキ達は、ソウレンさんが鬼人族である事がバレぬよう、顔に布を巻き素顔を隠した。


 エリノアさんは、用があると、村へ着くとどこかへ行ったが、俺らは急ぎ村長の家へと向かった。


「ソウレンさんはここで待っていてください」


 静かに頷くソウレンを部屋の廊下に待機させ、イツキ達は村長の部屋に入っていった。


「おー……これはこれは、皆さんお揃いで。オーガの件どうなりましたか?」

「その事なんですが、俺らにそのオーガを討伐することはできません」

「できないとは、どういったことでしょうか。皆さまには討伐出来ぬほど強いということですか?」

「……もちろん、強いです。ですが、俺らが討伐できない理由は違います。あなたが俺らに討伐するよう依頼したのはオーガではなく鬼人族です。そして、この村に伝わる逸話。あの真の英雄はあなたの先祖ではなく、鬼人族だ!」

「………なるほど、なかなか面白いことをおっしゃいますね」

「何を根拠にそのようなことを?」

「証拠ならあります。俺らは先程鬼人族の村へと行き、真実を聞いてきました。そして、ここに鬼人族が1人来ています」


 俺の合図と共に、ソウレンさんは扉を開け部屋に入ってきた。


「……その男が鬼人族?ただの人間ではないか」

「この顔を見れば鬼人族だと分かるだろう。貴様が先日村の者に襲わせたこの俺の顔をな!」


 ソウレンは顔隠していた布を取り、素顔を顕にした。


「……き、貴様は!!」

「その昔、この土地を1人最後まで守り抜こうとした青年は今も生きている。その青年は今、我ら鬼人族の長をしている。これがどういうことか分かるな?」

「諦めろ!お前の悪事は俺らが暴いた!」

「そうだよ!大人しく僕たちに捕まるんだ!」

「今なら、手荒な真似は致しません」


 全てを明らかにされた村長は小さく震えながら拳を握っていた。


「……ふ、ふん、ここまで追い詰められては仕方ない。確かに、私の先祖はこの土地を鬼人族から奪い取った。だが、それがどうした?鬼人族など所詮は魔物。魔物ならば人間に討伐されて当然ではないか」

「貴様……!!」

「ソウレンさん、落ち着いて!」


 鬼人族を魔物と揶揄されたソウレンは怒り、金砕棒に手を伸ばしたがイツキの制止により、已の所で踏みとどまることが出来た。


「見ての通り、この人も我慢の限界です。大人しく俺らに捕まる気はないですか?」

「この事に勘づく者が今まで居なかったとおもうのか?」


 村長が不敵な笑みを浮かべたと同時に、指にはめた指輪の宝石が赤く輝き出した。

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異世界だろうと極めた武術でどうにかなる〜固有スキルは無いけど拳があります〜 和泉和琴 @wato-izumi

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