第31話 鬼人族の里へ

 俺たちは、ソウレンさんの案内で鬼人族の里へ向かっていた。


「鬼人族って何人くらいいるんですか?」

「世界に今どのくらいの鬼人族がいるのかは分からない。だが、俺たちは20人ほどで集落を形成し生活している」


 20人……ソフィーが感知した数と同じ。


「……この辺り、魔物を見かけないのはソウレンさん達鬼人族が……?」

「ああ、この辺りの害をなす魔物はあらかた俺が排除した」


 ソウレンさんが……

 先程、俺に武器を向けていた時、ソウレンさんは他の4人に対しても一切隙を見せていなかった。

 あれだけでも分かる。

 この人は強い……


「先程から君ばかり質問していて不公平だ。俺の方からも質問させてもらおう」

「は、はい、もちろん。俺に答えられることならなんでも」

「君は、何者だ?」

「何者……と言われても、ただの冒険者です」

「……あくまでシラを切るのか……先程、君にこの金砕棒かなさいぼうを構えた時。君の隙は一瞬で消え、こちらのどんな行動にも対応しうるプレッシャーを放っていた。それだけの使い手がただの冒険者などありえない」

「……本当に、ただの冒険者です。ただ、武術の心得がある。それだけです」

「話す気がないか……」

「すみません……」

「気にするな。よく知らぬ者に素性を明かすなと余程のバカか、余程自分の腕に自信のあるものだけだ。その点、君はとても賢く、優しい心の持ち主のようだ」


 ソウレンは、フッ、と微笑み、ソフィーやナタリー、アランの方に視線をやった。


 この場でイツキが素性を明かし、万が一ソウレン達鬼人族に害があると判断されれば、ソウレンは反転イツキ達に襲いかかる可能性がある。

 そうなれば、仲間の身の安全までは保証できない。

 それほどの強者であるソウレンを相手に素性を明かさないという行動は、仲間を守る為のものであった。


「ところで、その腰の金砕棒かなさいぼう。俺が知っているものとは少し形状が異なるんですが……」


 一般的に金砕棒かなさいぼうと言われ思い起こすものは、鬼の金棒のように、持ち手から先端にかけ太くなっていき、先端には幾つもの突起がついている物だ。

 しかし、ソウレンが背負う金砕棒は持ち手から先端まで、ほとんど太さがほとんど変わらず細いままの形状に、持ち手には柄巻のようなものが施されていた。


「これは、俺たち鬼人族が己で改良したものだ」

「なるほど、だから見ない形状だったんですね」


 ソウレンは背中の金砕棒を見せるためイツキに手渡そうとした。


「いいんですか?俺に渡して」

「君はそんなに馬鹿な行動をするような男じゃないだろう……?」


 ソウレンさんの俺を信頼しての行動を俺は無碍にするはずもなく、素直に金砕棒を受け取った。


 持ち手から先端までの太さの違いを無くすことで軽量化に成功、さらには持ち手に柄巻をする事で、操作性を向上させ、手溜まりをよくする事で力を伝えやすくなり威力の向上にも繋がっている。

 なかなかに考えられた武器だ……


「そういう君の剣こそ珍しい形をしているようだが?」

「これは、俺の故郷の武器なんです」


 そういうと、今度はイツキが自身の刀をソウレンに手渡した。


「君の方こそ、俺を信用していいのか?」

「ソウレンさんの行動に敬意を評してるだけです」


 ソウレンは少し微笑むとイツキの刀を受け取った。


「この剣は''片刃''なのか……刀身は黒く、柄巻を施している。見た事のない形状の剣だな」

「これは、刀といい俺の故郷の武器です」

「刀……君の故郷の武器…か……」

「イツキのその武器、ものすっごい斬れ味なんだよ!」


 先程まで、ソウレンを警戒しソフィーの後ろに隠れていたナタリーが、ひょこっと現れソウレンに話しかけた。


「そんなに良い斬れ味なのか?」

「はい、ドラゴンの皮膚すら切断する斬れ味です」

「ドラゴンの……」

「ドラゴンって言ってもあの時は人化してたけどな」

「イツキ、少し振ってみてもいいか?」

「……どうぞ」


 ヒュッ


 ソウレンが刀を振ると、風切り音と共に目の前の木が斜めに切り倒された。


(こ、これは、なんて斬れ味なんだ……)

「ありがとう。こんなに素晴らしい武器を持っているにも関わらず、俺に向けなかったとはな」

「あの時は信じてもらうことが最優先だったので」

「フッ……まぁいい。それより、少々ゆっくり歩き過ぎた。少し急ぐぞ」


 そう言うと、ソウレンはスピードを少し上げイツキ達もそれに続いた。


「後どのくらい先なんですか?」

「残り20キロといった所だな」

「まだ、20キロもあるのー!?僕もう疲れたよー」

「だらしねぇな、ナタリー」

「アランみたいな体力バカと違って僕はか弱い女の子なんだよ!」

「体力バカとはなんだ!体力バカとは!」

「ふ、2人とも、落ち着いて……」


 いつもの調子で言い合いを始めた2人をソフィーが仲裁しているのを見兼ねたエリノアが話に割って入った。


「全く、お遊戯会ではないんだ。2人とも少しは緊張感を持て」

「だってー……」

「だって、では無い。少しは落ち着かんと怪我をするぞ」

「はーい…………って、エリノアさん浮いてない……?」


 ナタリーの言葉でエリノアの方を見ると、エリノアは魔法使いと言えばといった様な長い杖のようなものに腰かけ飛んでいた。


「え、エリノアさん……?なにそれ」

「わたしが昔使っていた杖だが?」

「いや、そうじゃなくて、なんで浮いてるの?」

「か弱いレディーにこんな森を歩けと言うのか?」


 か弱い……か……?


「おい、また失礼なことを考えたな?」

「い、いえ……そ、そんなことより!なんですかその魔法!」

「ただの浮遊魔法だ」

「た、ただのって……」

「あ、ありえねぇ……」

「僕初めて見た……」

「当然です……」

「お、おい、何者なんだ、この女性は……」


 エリノアの浮遊魔法にはさすがのソウレンも驚いたのか、鋭い眼光を丸くしてエリノアを見ていた。


「こ、この人は元勇者パーティーの1人で光の魔術師、エリノア・シモンズさんです」

「ひ、光の魔術師……まだ生きていると、噂では聞いていたがこの人が……」

「よろしく頼む」


 エリノアはさも当然のような反応でソウレンに挨拶をした。


「と、とにかく急ぐぞ」

「は、はい」

「仕方ない、ナタリー、ソフィー乗れ」


 エリノアが2人を杖に乗せると、再び鬼人族の集落を目指し出発した。


「なんか、森なのに引っかからなくて歩きやすいな」

「ああ、それは多分ソウレンさんのおかげだよ」


 ソウレンさんは進む先の小枝や葉を俺達が通りやすいよう、わざと散らして進んでいた。


「本当だ。わざわざ俺らのために……」

「最初こそ警戒はされていたが、やっぱり鬼人族は優しい種族なのかもな」

「そうだな」


 ソウレンの気遣いもあり、どんどん森の奥へと進んで行ったイツキ達の目の前に、囲いで守られた集落が現れた。


「着いたぞ。あれが俺ら鬼人族の里だ」

「あれが……」


 周りを木の柵で囲われた、小さな集落。

 藁葺き屋根の平屋が10軒ほど立てられ、村の中には鬼人族の子供も見て取れた。

 村の入口には2人の鬼人族が金砕棒を片手に佇み、村への侵入者を見張っていた。


「話は俺がする。お前らは余計な事は話さず俺に着いてこい」


 ソウレンの言葉に俺らは頷き、ソウレンの手引きの下、村へと向かった。


「ソウレン、帰ったのか」

「なんだ?その後ろのヤツらは」

「こいつらは、あの村について聞きたいことがあるらしく、俺が連れて来た」

「よそ者をか……?それも、よりにもよって、お前をこの間信用しなかった人間族を?」

「心配するな。こいつらは先日のやつらとは違う。俺が保証する。それとも、俺のことを信じず俺諸共殺るか?」

「……はぁ、お前が言うなら問題無いんだろう」

「だが、何かあっても俺たちのせいにするんじゃねぇぞ!」

「分かっている」


 ソウレンのおかげもあり、門番の鬼人族は怪しみつつも俺たちを里の中へと通してくれた。


「よし、とにかく余計な行動はせずに長老の家まで行くぞ」


 俺たちはソウレンから離れることなくついて行き、長老の家へと向かった。

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