第14話 王族の''お・も・て・な・し''

「こんなご馳走気が引けるな……」

「なに遠慮せず、どんどん食してくれ」


 その日の夜、俺らはアルベルト王によって手厚く持て成されていた。



「イツキさん、せっかくご用意してくださいましたし、頂きましょう」

「ほんとほんと!こんな美味しいご飯食べないなんて勿体ないよ!」

「そうだぞ、イツキ!明日のためにも沢山食べておけ!」


 いや、少しは遠慮しろよ、なんか飛んできてるし……

 アラン、お前に関しては元主人相手だろ……


「ハッハッハ!よい食べっぷりだ!さぁ、イツキ殿も」

「じゃあ、遠慮なくいただきます」


 なにこれ、美味しい!

 この肉、舌の上で溶けるように消える!

 このスープもいける!

 さすが王族の食事だ、今まで食べてきたどんな料理より美味しい!


「おお、イツキ殿もよい食べっぷりだ!どうかな?シルバーボアの肉は」

「めちゃくちゃ美味しいです!肉が舌の上で溶けて消えていきます!」


 シルバーボアってやつなのか…シルバーボア……

 ボアと言えばイノシシみたいな魔物だよな。

 あれ、こんなに上手いのか!


 その後も、俺らは超一流の食材と超一流のシェフの料理を堪能した。


「「「「食べたぁーーーーー!!!!!」」」」

「ハッハッハ!よい食べっぷりだった。さて、食事も済んだことだ。今夜泊まる寝室に案内させよう」

「「「「ありがとうございます!!!」」」」


 俺らはそれぞれ、今日泊まる部屋へと案内された。


 さすがに、王族の持て成しだ。

 めちゃくちゃ豪華だ。

 ベッドは1人で寝るには十分すぎるほど大きいし、部屋もめちゃくちゃ広い。


 イツキはベッドに横になり眠ろうとしたが、いつもと違うベッドということもあり、寝付けずにいた。


「はぁ、大きすぎるベッドってのも考えものだな、どうにも落ち着かん。……にしても、この城ほんと広い、トイレからの帰り道がわからん。」


 お?なんだあの部屋明かりがついてる……


 迷子になり王城を歩き回っていると、微かに開いた扉から明かりが漏れている部屋を見つけた。

 明かりのついた部屋をこっそり覗くと、アリシア王女とベッドで横になる人が見えた。


 アリシア王女か……ベッドに寝てるのは誰だ?


「お母様、もうすぐイツキ様が光の魔術師を連れてきて下さいます。あらゆる魔法に精通するという光の魔術師が来れば、お母様の病もきっと治ります」

「……アリシア、ありがとう」


 そう言うと、ベッドで横になるビューラはアリシアの頬を優しく撫でた。


「……そのイツキという冒険者は部屋の外で聞き耳を立ててる方かしら?」

「部屋の外……?」


 うげっ、バレてたのか……

 見つかった気配は無かったし、そもそもあの位置から確認出来ないだろ。

 バレたからには出ないわけにはいかないか……


「す、すみません。トイレに行った帰りに道に迷っちゃいまして… 」

「い、イツキ様!?」

「……あら、思ったよりお若い方なのね」


 アリシアと同じ、吸い込まれそうになるほど綺麗な紅眼……アリシアの瞳は母親譲りなのか。

 それにしても、さすがにアリシアの母親だ。

 このスタイルの良さに、優しい雰囲気漂う美しい顔立ち。病のせいか少しやつれているが、それでもとてつもない美しさだ。


 それにしても……


「どうして分かったんですか?」

「あら、そんなこと?これでも、わたし元プラチナランク冒険者なのよ?気配察知くらい簡単よ」


 プラチナランク……それって、めちゃくちゃ凄いんじゃ……


「それより、イツキくん?アリシアのわがままを聞いてくれてありがとう」

「わがままだなんて、アリシア王女の王妃を思う気持ちを聞いて断るなんて出来ないですよ。光の魔術師ってのが居るか分からないけど最善を尽くします」


 ビューラ王妃はクスッと笑った。


「いますよ?光の魔術師。もちろん、そこに辿り着くのは容易ではないですが」


 ……ん?いる?光の魔術師が?200年以上も前の人間が生きてる?そんなバカな。


「お母様!本当に…本当に光の魔術師はいるのですか?」

「ええ、もちろん。彼女は、わたしが駆け出し冒険者の頃師事していましたから。ただ、お師匠様でもわたしの病を癒せるかは分かりませんが」


 彼女…女性なのか。それに、ビューラ王妃のお師匠様……にしても生きてるって、どんな婆さんだよ。


「イツキ様、わたくしも連れて行ってください!」

「連れて行くって……流石にそれは無理ですよ!」


 何かあった時責任取れねぇし、そもそも守りながら探し出せる気がしねぇ


「わたくしもお母様と同じ聖女の固有スキルを持ちます!ヒーラーとして役に立つはずです!」

「そ、そうは言っても…」


 この王女様、押しが強い……


「アリシア、イツキくんが困っていますよ。イツキくんも、わたしの為なんかに危険を冒すことはありません。無理せず断ってくれて構いません」


 自分より人を思いやるか……

 アルベルト王が言う通り、人の為に動くことが出来る清らかな人だ。

 それに、面倒事はゴメンだが人に頼られるのは嫌いじゃない。

 オマケに、この美人母娘のためだ。

 美人に頼まれると、断れないのは男のサガだ。


「無理なんてしてません。必ず光の魔術師を連れてくるのでお2人は城で待っていてください」

「分かりました……」


 しょんぼりとしているが光の魔術師の住む場所は危険らしい。

 それに、王女に何かあれば本当に俺の首が飛ぶ!物理的に。

 だから、大人しく待っていてもらおう。


「それじゃあ、明日も早いので俺はこれで」


 挨拶もそこそこに俺は部屋を出た。

 当然、迷子になりまくったが。


「……んで、ここどこよ!

 広すぎるだろ!この城ー!!!!」



 そして、夜が明けた。


「朝…か。結局、あの後1時間近く迷子になった。というか、なんか足下に違和感が……」


 足下に違和感を感じた俺は布団を捲り、その光景に驚愕した。


 なんで、ここにアリシア王女がいるんだ?

 この状況にアリシア王女の格好、これは非常にまずい。

 この状況を見られたら、俺の立場…もとい首が危うい。

 とにかく、アリシア王女を起こさないように、この部屋を出るしかない……


 コンコン


 人生の終わりを告げる音が部屋に響いた。


「イツキさん、起きてますか?」

「そ、ソフィーか?起きてるぞ!?ど、どうかしたのか!?」

「いえ、なかなか起きてこられないので起こしに来ました。入ってもよろしいですか?」

「いやいやいや!その、えーっと、そうだ!着替え!着替えてるから!」

「そ、それはすみません。お城の外でお待ちしておりますので」

「わ、わかった」


 助かった、と思ったのも束の間だった。


「うるさいよぉー」


 アリシア王女が最悪のタイミングで目を覚まし、ましてや声を発した。


「イツキさん……?どうして、イツキさんの部屋からアリシア王女の声が聞こえるんですか……?」


 声が聞こえ、ソフィーはドアを勢いよく開け入ってきた。


 あー……終わった。

 俺の人生ここまでか……


「そ、ソフィー、これは違うんだ!!」

「……何が違うんですか?私にも分かるように説明して貰えますか?」


 説明……この状況で説明しても信じてもらえるわけがない。

 俺の寝室、薄着で抱きつき眠るアリシア王女。

 うん、終わった。これ説明出来ない。


「お、起きてください!アリシア王女!この状況説明してください!!」

「イツキさん……覚悟はいいですか?」


 笑顔であって笑顔でないソフィーは、俺に近づき肩に手を置いた。否、肩を握り潰さんとする力で掴んだ。


「あ、あのね、本当に、なにも、してないの」

「この状況で信じられますか……?」

「シンジラレマセン……」


 ああ、ありがとうお母さんお父さん。

 第2の人生も楽しかったよ。

 今度は、イケメンでモテモテで、お金持ちになれますよーに。


 ソフィーの拳が顔面に当たる寸前、救いの女神が目覚めた。


「……あれぇーなんでイツキ様がここに……?ああ、寝ぼけてこの部屋に入ったんだったー」


 眠気まなこを擦り、アリシア王女はこの状況の経緯を呟き、また倒れるように眠りについた。


「ほ、ほらぁー、ね?言ったでしょ?」

「ふぅ……でしたら早く言ってくださらないと困りますよ!イツキさん!」


 いや、言ってたけど……?


「それでは、外で待っていますね?あ、アリシア王女のお体をジロジロ見ていたこと、気づいていないと思ったら大間違いですからね……?」


 あ、終わった。

 でも、こんな美少女がこんな格好だったら見ないなんて無理だよ!!

 ……俺、光の魔術師の住む場所に着く前にソフィーに殺されるかもしれない。


 イツキは、絶望感に襲われながら身支度を済ませ、ソフィー達の待つ城の外へと向かった。

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