幕間 1.天使の隣は誰のもの!?

 この家では、毎晩エリスがイツキと一緒に寝ると駄々をこねる。

 今回は、そんな天使エリスと誰が一緒に寝るのかという争奪戦をお送りする。


「パパとねるのー!」

「そっかそっか〜、エリスはパパと寝たいのかぁ〜」

「あいつ、エリスの事溺愛し過ぎじゃないか……?」


 エリスが生まれて1週間。

 イツキは毎日のように、エリスの事を可愛がり常に行動を共にしていた。


「まぁ、あれだけ懐かれたら溺愛しちゃうのも分かるけどねー」

「そうだけどよ……なんというか、見るに堪えない顔してるぞ……」

「それはその通りなのですが……」


 エリスを愛でるイツキはデレデレの顔で接しており、凛々しさの欠片もないといった表情だった。

 エリスは、特にイツキに懐いている様子でほぼ毎日イツキと同じベッドで寝ていた。


「エリス、たまには私と寝ませんか?」

「ママとー?」

「そうです。イツキさんと毎日一緒に寝ると迷惑がかかりますよ?」

「パパはエリスといっしょだとめいわくなの?」

「う……そ、そんなことはないと思いますけど……」


 さすがに、イツキとエリスが一緒に行動し過ぎだと危惧したソフィーはエリスに自分と寝ることを提案したが、純新無垢な表情でエリスに尋ねられ、その可愛さに思わず言い淀んでしまった。


「ソフィーはね、エリスと一緒に寝たいなーって言ってるんだよ?」


 言い淀んでいるソフィーに助け舟を、とナタリーはエリスと同じ目線になるようしゃがみ、優しい笑みを浮かべ話しかけていた。


「ママはエリスといっしょにねたいの?」

「そうだよー。ソフィーはエリスの事が大好きなんだよー」

「エリスもママ大好き!」

「よし!それじゃあ、今日はソフィーと一緒に……」

「ナタリーおねえちゃんも大好き!アリシアおねえちゃんも大好き!エリノアおねえちゃんも大好き!」


 思わぬ言葉を貰ったナタリー、アリシア、エリノアは思わずときめいてしまい、それぞれが自分と寝るようにエリスに話しかけ始めた。


「エリス!ナタリーお姉ちゃんと一緒に寝よう!」

「いいえ!エリスはアリシアお姉ちゃんと寝るんですよね〜?」

「なに、元はと言えばわたしが頼んだ事。わたしがエリスと寝よう」


 突然、話しかけられたエリスは困った様に指を咥え、4人を見比べていた。


「な、なぁ、エリス……?俺のことは好きなのか?」


 先程、1人名前が上がらなかったアランはしれっと、自分の事は好きじゃないのかと尋ねた。


「アランおにいちゃんは、あそんでくれないからいや!」

「え……」


 ピシッ……


 アランの中で心に傷が深く刻まれた音が強く響いた。


 普段、エリスに話しかけられてもどう接すればいいのか分からないアランは理由をつけてエリスとの距離を取っていたことが裏目に出て、エリスに嫌だ、と言われてしまった。

 しかし、実はエリスの事が誰よりも気になっており、どうすれば好かれるのかを日夜、研究していたアランは人知れずショックを受け、部屋の隅で小さく纏まっていた。


「エリスはママが良いですよねー」

「そんなことないよね、エリスは僕と一緒に寝るんだよねー。ほら、僕と寝たら今度一緒にぬいぐるみ買いに行こうねー」

「いいえ、エリスはわたくしの事が好きなのです!エリス、わたくしは今度エリスの好きな物なんでも買ってあげますよ」

「何を言う。幼子の扱いに長けているわたしが1番に決まっているだろう。どれエリス、わたしと一緒に寝れば誰よりも強いドラゴンにしてやろう」


 エリスに選ばれようと、ソフィー達による意地とプライドを賭けた勝負が始まろうとしていた、ちょうどその頃。


「お、俺だって、エリスと……」

「アラン……プッ…ど…どんまい……クククク」


 しれっと聞き、しれっと撃沈したアランに気づいていたイツキは、笑いを堪えることが出来ないまま、アランを慰めていた。


「イツキ……お前……」

「まぁまぁ、怒るなよアラン。お前にいいこと教えてやるから」

「いいこと……?」


 イツキはアランに耳打ちをし、エリスが喜ぶ事や物を教えた。

 エリスは、子供らしくお菓子や、旗の立ったお子様ランチが大好物であり、かくれんぼやお馬さんごっこといった遊びが大好きだった。


「エリスー?ほらぁー美味しいクッキーだよー」

「あ!アランずるい!」

「なるほど、その手があったか……」


 エリスの好物で釣るアランに、ソフィーやナタリーはズルだ、と言い、アリシアやエリノアはその手があったか、と感心していた。


「わぁー!アランおにいちゃん、たべていいのー?」

「うん、いいよー。イツキ達には内緒だぞ?」

「うん!パパたちにはないしょだね!」


 お菓子に釣られたエリスは、アランの方へと駆け寄りお菓子を受け取ると、イツキ達には内緒だと人差し指を立て、口元に当て言った。


 その可愛らしい仕草を見た、イツキ達は全員漏れなくだらしない顔をしていた。


「エリスきょうは、アランおにいちゃんとねるー!」

「ほ、ほんとか!エリス!」

「うん!クッキーくれたからアランおにいちゃん大好き!」


 大好き、と望んでいて言葉を貰った上に抱きつかれたアランは涙を流し拳を突き上げていた。


「それじゃあな、お前ら。俺はエリスに''選ばれた''から一緒に寝る」


 こうして、エリス争奪戦は幕を閉じた。

 しかし、アランは翌日自分の寝相が悪くエリスに、もういっしょにねない!と言われてしまい、それ以降どんなに物や遊びで釣ろうとしてもアランと寝るということはなくなった。

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