第24話 シスターからの依頼
「それじゃあ、エリスのこと頼みます」
「ああ、しっかり見ておくから安心して冒険者業をしてこい」
この日、俺たちはエリスのお世話をエリノアさんに頼み久しぶりに依頼を受けることにした。
「今日はなんの目的だ?」
「なんだよその言い方……」
「だってよ、金ならノーランさんから嫌ってほど貰ってるだろ?それなのに危険な冒険者の仕事をするなんて思わなかったからな」
「ああ、それな……この間、夜竜の件もあっただろ?あの時は何とか撃退したけど、あのまま黙ってるような奴じゃないだろうし……何より、俺が何かしてないと落ち着かないんだよ」
「そういう事ね……」
ソフィー達の少し後ろでアランと話をしつつギルドを訪れると、ギルドのクエストボードを眺めていた。
「それで、何を受けるんだ?」
「んー……」
遺跡の調査、オーガの討伐、ハイオーク討伐、ポイズンフロッグの討伐……
遺跡の調査は時間がかかりそうだし、討伐系の依頼も今はそんな気分じゃない……
クエストボードを眺め吟味していると、カイラが話しかけて来た。
「イツキさん、何かお探しですか?」
「ああ、カイラさん……討伐系以外で何かいい依頼は無いかなと……」
「そうですね……でしたら、こちらなんかはどうでしょうか?」
「なになに……」
カイラさんが依頼してきたのは、教会が運営する孤児院で子供たちの遊び相手をするといったものだった。
内容としてはそれほど、大変そうでは無いものの、俺が気になったのはその報酬だった。
「これ、なんでお世話するだけで銀貨100枚も貰えるんですか……?」
「この、孤児院で引き取っている子供たちは、亜人の子供ばかりで力や体力が私たちとは比べ物にならないくらい強く、普通の報酬だと割に合わない、とこの金額になってるんです」
なるほど……力や体力が凄いといっても所詮は子供だ。
それに、うちにはエリスがいる……ここの子供たちと遊ぶことで、エリスが喜ぶ遊びなんかも新しく学べるかもしれない。
いい機会だ、受けてみるか……
「……おい、イツキ。お前まさかこれ受ける気か?」
「ああ、いくら力が強いといっても俺らなら大丈夫だろ?」
カイラさんから受け取った依頼書を持ち、1人考えているとアランは渋めの反応を示し、それに気づいたソフィー達は依頼書を覗き込み、難色を示した。
「そうでしょうか……」
「えー……これ、もの凄く大変だよ?」
「そうでしょうか?子供と遊ぶだけじゃないんですか?」
「アリシアは知らないんだよー。亜人は子供でも、僕たちなんかとは比べ物にならないくらい力が強いんだよー」
え……これそんなに大変なの?
でも、もう受ける的なノリ出しちゃったし、引くに引けないけど、そんなに大変なら断る……
「イツキさん!先程教会に連絡をしたら是非お願いするとの事です!」
あ……逃げ道塞がれた……
「もー……イツキは何も知らないんだから……」
「仕方ねぇな、カイラちゃんにかっこ悪いとこ見せれないしな」
「そうですね。エリスといつも遊んでいるんです。私たちなら大丈夫です!」
「そうです!わたくし達だって、亜人の子に負けないです!」
断ろうとしたイツキをよそに、カイラの行動によりトントン拍子で依頼を受ける事になり、ソフィー達仲間も何故か一様にやる気を出した。
「し、仕方ない。やるか!」
「「「「おーー!!!」」」」
こうして、俺は一抹の不安を抱えつつ、この依頼を受けることにした。
今にして思えば、いいように皆が嫌がる依頼を押し付けられたように感じるが、かいらさんに限ってそんなことは無いと思いたい……
「ここか、意外と、と言うべきか案外綺麗なところだな……」
依頼のあった孤児院に着くと、予想していた孤児院とは違い遊ぶ為の広場があるだけでなく、建物も綺麗なもので、イツキが勝手に抱いていた孤児院のイメージとは乖離していた。
「孤児院を営む教会には、国から補助金が出され、それを孤児院の運営に当てることができるんです。ですから、この王国の孤児院は子供が過ごしやすく綺麗で食べ物にも困らないようになっているんです」
「へぇー……さすがアルベルト王だな」
誇らしげに説明をし、父親を褒められたアリシアは豊かな胸を更に張り、誇らしげな様子だった。
孤児院の前で話していた事もあり、声が聞こえたのか孤児院の中から1人の若く綺麗な女性が出てきた。
「あら、もしかしてカイラが言ってた冒険者の方ですか?」
「あ、どうも、冒険者のイツキです。こっちは俺の仲間たちです」
「依頼を受けて下さり、ありがとうございます。この孤児院のシスターをしております、リアと申します」
孤児院に着くと、若く綺麗なシスターが俺たちを出迎え、今回の依頼を出すことになった経緯を話してくれた。
今回の依頼は街の外れにある孤児院。
この孤児院は教会に隣接しており、優しく若いシスターが孤児院を営んでおり、王国からの支援もあり日常生活や孤児院の運営には困ること無く過ごせているらしい。
しかし、若いシスターでは亜人の特に男の子の遊び相手は厳しいらしく今回この依頼を出したとの事。
「つまり、俺たちは亜人の男の子の遊び相手をすればいいんですね?」
「はい……私では男の子の相手は力の差があり過ぎて……」
「任せてください、麗しきシスター。僕たちがシスターの負担を和らげてみせます」
アランは綺麗なシスターに惚れたのか、シスターの手を取り、片膝をつきながら何やら格好をつけ話していた。
「あ、あれなに……?」
「お綺麗なシスターを見て、いい所を見せようとしている……といった所でしょうか……」
「ま、そうだろうな」
「そうですね……」
「なんだろう……僕少しムカついてきたよ……」
「そうですね……わたくし達も容姿は悪くないですものね……」
「ま、まぁ、私たちにこの反応はなかったですからね……」
ナタリー、アリシアはアランがシスターにデレデレな様子を見て、気にくわないといった様子で、ソフィーはそれを優しくなだめていた。
「よーし、お前らシスターのためにも頑張るんだ!」
「「「「お、おー……」」」」
こうして、無駄にやる気のあるアランと俺たちは子供達の遊びに付き合うことになった。
「お兄ちゃんたち誰ー?」
「俺たちは、シスターの依頼で君たちと遊ぶために来たんだよー」
「やったー!!じゃあ、お兄ちゃん達おれらと鬼ごっこしようよ!」
「よーし!じゃあ、お兄ちゃん達が鬼をしてあげよう!みんな逃げろー!」
シスターの手前、いい所を見せたいのだろう。
アランは誰よりも張り切っていた。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん達は私たちと遊ぼー」
「いいですよ、私たちと遊びましょうか」
亜人が力や体力が桁違いといっても、女の子。
女の子は女の子らしく、大人しめの遊びを希望の様子だった。
「よーし、アリシア!僕たちも頑張ろうか!」
「そうですね。お母様の子供たちへの対応を見てきた経験を活かします!」
ソフィー達女の子組が、お花摘み遊びやお飯事をして遊んでいる横ではアランとイツキが男の子達に翻弄されていた。
「お兄ちゃん達こっちだよー!」
亜人の力や体力が俺たちとは比べ物にならないというのは本当のようで、亜人の子供たちは凄い速さで走り、木の上に登り俺達を挑発していた。
「く、くそ……ハァハァ……あの子ら速すぎないか……ハァハァ……」
「あ、あれが……ハァ……亜人だ……ハァハァ……よ……」
息を切らすイツキ達とは対象的に亜人の子供は元気いっぱいという様子だった。
これは、シスター1人で相手できないというのも納得だ。
こんな事毎日するなんて考えられない……
そりゃあ、報酬が良くても依頼を断るわけだ……
「おい、アラン……一瞬だけ足止めできるか?」
「……?まぁ、一瞬なら……」
「よし、なら一瞬だけ頼む。俺が捕まえる」
アランはイツキに頼まれ、足止めを開始した。
「おーい!木の上はやめて、降りてきてくれないか?」
「えー、お兄ちゃん達登れないのー?」
「そうなんだよー!頼む!降りてきてくれー!」
「降りたら捕まえるんでしょー?降りないよー」
素直な子供は、降りるというのが罠でありイツキがその裏で捕まえる準備をしているとは思っていなかった。
「イツキ、今だー!!」
「おう!」
アランの合図と共に、孤児院の屋根によじ登っていたイツキは子供のいる木へと目掛け飛び降り、まず1人を捕まえた。
「お兄ちゃんずるいよー」
「なんだー?俺らからしたらお前達の身体能力の高さの方がずるいぞ?」
「えー!」
「よし、お前も俺らの仲間だ、他の子達も捕まえるぞー」
「仕方ないなぁー、よし!捕まえるぞ!」
こうして、仲間を1人増やしたイツキはアランとその子に頼み挟み撃ちをしてもらい、逃げた子をイツキが待ち伏せ捕まえていった。
「そっち行ったぞ、イツキ!」
「おう!【縮地】」
縮地を使ったイツキは次々と子供達を捕まえていった。
「兄ちゃん!今のなにー!?」
「すごいすごい!今瞬間移動したみたいに消えた!」
「これはな、縮地っていう俺の技みたいなものだな」
「「えー!すげぇー!!かっけぇー!!」」
鬼ごっこをしていたはずの男の子達はイツキの縮地に興味を持ったのか、逃げていた残りの子達も集まりだした。
「ねぇねぇ!俺たちにもそれ教えてよ!」
「あ、僕も知りたい!」
「俺も!」
「教えるのはいいけど、これすぐには出来ないぞ?」
「それでもいいよ!教えて教えて!」
「お、お前の縮地か……俺もついでに覚えてやる」
1人の声を皮切りに、イツキの縮地を教えて欲しい、とアランまでもが集まり、イツキによる縮地指導が始まった。
「違う違う、いいか?体を大きく傾けて、その重力を使って素早く動くんだ」
「そんな事であの動きをしてんのか?」
「まぁ、俺のは長年やり続けた結果だな」
「はぁ、お前の技を知ると余計にお前の凄さを知るよ……」
イツキの縮地指導は太陽が傾き、空が赤く染る頃まで続いた。
「ダメだー!できなーい!」
「そう簡単に出来たら俺が困るよ……」
「つぎ!次に来る時にはできるようになってるからね!」
「おう!それまで、自分たちで練習してろよ?」
「「「「はーーい!!」」」」
一一一一一一一一一一一
「お兄ちゃんたちありがとー!!」
「お姉ちゃんありがとー!」
「「「「また来てねーー!!」」」」
子供達が大きな声で手を振りながらお礼を言うのを見たイツキ達も笑顔で手を振り返していた。
約1名を除いて……
「またなーー!!!シスターの言う事よく聞くんだぞー!!」
「また遊ぼーねー!!」
「いい子にしてるんですよー!」
「また、遊びに来ますねー!」
「シスターーー!!!俺は、シスターの為ならばいつでも馳せ参じますー!!」
俺たちは、ここ最近で1番きついと言っても過言では無い依頼をこなした。
しかし、肉体的にはキツかったものの、可愛らしい子供達に癒されたイツキ達は晴れやかな顔で家に戻った。
「お、おう……帰ったか……」
「も、戻りました……というか、エリノアさんどうしたんですか……?」
「な、なに、お前らの帰りが遅くて、エリスが駄々をこねただけだ……」
家に帰ると、服を着崩したエリノアがぐったりとした様子で倒れており、家の中も色んな物で散らかっており、その中心にはエリスがいた。
「あ、あの……どうか、休んでください……」
「すまないな……」
今回の依頼で疲れ帰ったイツキ達は、エリスの相手がこの世で1番大変なのかもしれない、と思い、イツキ達の間で長くなる依頼は受けないという暗黙の了解が生まれた。
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