第27話 サイハク村の逸話

「さすがに、遠いなぁー」

「100キロだろ?馬車で2日ってだけでも御の字だろ」


 アグノリアを出発し2日目の朝。

 俺たちは目的地である、サイハク村を目指し再出発をしていた。


「サイハク村までは残り半分ってとこなんだろ?」

「そうですね、残り50キロを切ったところだと思います。サイハク村までは、このまま川沿いに下っていき、小さな丘を越える必要があります」

「なるほどねー……てか、思ったんだけど、出発してから魔物を見てない気がするんだけど」

「言われてみればそうだねー。元々、この辺りは魔物が少ないんだけど……それにしても見かけないね」


 街から近い距離であれば、道も整備され常に冒険者や警備隊が行き交うため、魔物の出現数は少なくなる。

 しかし、ここはもうアグノリアから50キロ以上も離れた場所。

 さすがに、この距離で魔物が全く出ないということは考えられない……

 ということは、サイハク村に出たというオーガ……鬼人族が関係しているのか…?


「エリノアさん……」

「恐らく、キミの想像通りだ。理由までは分からないが、魔物を見かけないこととサイハク村のオーガの件は何か関係している」


 エリノアさんも同じ考えか……

 だけど、それがどう関係しているんだ……?


「イツキ、今考えても分かんないよ。村まではもう少しあるんだし、今からそんなに気を張ってたら疲れちゃうよー」

「あ、ああ、そうだな。」


 僕らみたいにリラックスしなよ、とナタリーは自分とアランを見習えと自分たちの過ごし方を見せつけた。


「うん……今から気張っても意味はないけどさ、2人はもう少し緊張感持とうよ……」


 イツキが2人に視線をやると、アランは涅槃の格好で鼻をほじり、ナタリーは椅子にうつ伏せになり寝ていた。


「まぁ、この2人の格好はともかく、ナタリーの言うように今から気張っても疲れるだけですよ?」

「そうです、イツキ様。この2人ほどダラける必要はありませんが、あまり気合いの入れ過ぎもいけませんよ」


 うん、そうなんだ。

 そうなんだけど、もう少し優しくしてあげよ?


 ソフィーたちの気遣いもあり、村に着くまで考え事をすることをやめたイツキは、他愛もない話をし村までの道を過ごした。



「お客さん、起きてください、着きましたよ。ここがサイハク村です」


 途中、昼食を取りお腹が満たされたイツキたちは心地の良い馬車の揺れにより、眠りについていた。


「あ、ああ……ありがとうございます」


 俺たちは馬車の運転手がアグノリアへと帰っていくのを見届けたあと、サイハク村へと入っていった。


 サイハク村。

 王都からも、アグノリアからも離れているこの村は、お世辞にも発展しているとは言い難い町並みで、村には数十件の小さな家、そして申し訳程度の宿屋があった。

 しかし、穏やかで平和な村のようで、村のあちこちから子供たちの駆け回り遊んでいる声が聞こえてきた。


「あら、この村にお客さんだなんて珍しいもんだね」


 村に入ると、椅子に腰かけるお婆さんが話しかけてきた。


「俺たち、ギルドの依頼で来たんだ!恐らく、村長からの依頼だと思うんだけど、村長の家分かるか?」

「村長の家かい?村長の家はここを真っ直ぐ行ったところにあるよ。この村で1番大きな家だからすぐ分かるはずだよ」


 お婆さんはそう言うと、道の先を指さした。


「婆さん、ありがとな!」

「「「「ありがとうございます!!」」」」


 俺たちはお礼を言い、お婆さんに言われた方へ歩き始めた。

 少しすると、明らかに他の家とは違う大きな家が見え、俺たちはその家の前まで歩いた。


「この家か……」

「なんつーか、めちゃくちゃ分かりやすくデカイもんだな」

「そうですね……」

「悪い村長さんだってりしてー」

「そんな訳ありませんよ」

「そうか?可能性はあると思うがな……」


 ハハハ……と苦笑した後、イツキは扉の前まで行きドアを叩いた。


 ドンドン!


「すみませーん!ギルドからの依頼で来ましたー!」


 イツキが言い終わると、すぐに扉が開き中から白髪でお腹の出た優しい雰囲気のおじいさんが出てきた。


「おお!お待ちしてました。ささ、どうぞ中へ」

「ありがとうございます」


 なんか、髭を生やせばサンタさんみたいな感じの人だな……


 村長は、イツキ達を応接室なるものに通すと今回の依頼について話し始めた。


「今回依頼したのは他でもありません。この村の近くにオーガが出現し、村の娘が襲われました。その時は何とか追い払ったものの、我々だけではどうすることも出来ず依頼をしたというわけでございます」

「なるほど……」


 村の人間に実害が出たということか……


「その女性は今どこに?」

「酷い怪我をしていまして、今はまだ眠っているのです」

「そうですか…俺たちは今回何をしたらいいんですか?」

「はい、皆様にはそのオーガの討伐をお願い致したいのです」

「討伐…ですか」

「これ以上村の者に被害が出る前に、どうかよろしく頼みます」

「……分かりました。とりあえず、今日はもうすぐ日が暮れるのでオーガの件は明日から取り掛かります」

「ありがとうございます!」


 村長は深々と頭を下げ俺たちに礼を言った。


「なぁ、どう思う?」


 俺は、ギルドマスターが手配した宿屋でアランと2人話していた。


「どう思うって何がだ?」

「あの村長だよ」

「どうも何も普通の優しそうな村長だったろ?」

「やっぱ、そう思うよなー……」


 話した感じ、悪い人って感じはしないんだよな……

 だけど、なんか隠してる感じがする。

 それが何なのかは分からないけど……



 ーー次の日ーー


「オーガ探して討伐するのか?」

「いや、その前にこの村に伝わるっていうオーガに関する逸話ってのを聞き込もうと思ってる」

「そういえば、ソフィーがそんなのがあるとか言ってたな」


 俺とアランはソフィー達に合流し、オーガの逸話について聞き込みをすることを伝えた。


「あら、昨日の……」


 行動を開始しようとしたちょうどその時、昨日村に入ってすぐ話しかけてきたお婆さんに出会った。


「あ、昨日のお婆ちゃん!」

「村長の家はわかったかい?」

「うん!わかったよ!」

「それは良かった」

「あ、お婆ちゃん、僕たちこの村に伝わるオーガのお話を知りたいんだけど、知ってる?」

「ああ、あの話かい……」

「知ってるの!?」

「ああ、知ってるよ。私でよければ話そうか……?」

「うん!お願い!」


 ナタリーの人懐っこい性格が功を奏したのか、お婆さんは実の孫を可愛がるかのようにナタリーの頭を撫でながら話を始めた。


「その昔、この村は今よりも大きく、それでいて今のように平和な村だったそうな……村の周りは豊かな自然に囲まれ、この村の土壌も作物を作るには最適だったこともあり食料には困らない環境だった。そうした環境を利用して、この村の人間は慎ましく暮らしていた。しかし、食料に困らず人間が沢山いるこの環境に目をつけた魔物が居た。それが、オーガだった……オーガは千を超える軍勢を率い、この土地を奪い取ろうと襲ってきたという。しかし、そんなオーガの軍勢をたった1人で追い払った青年が居た。その青年は勇敢にもその身一つで立ち向かい、自信が傷つくのを恐れずその身を犠牲にオーガの軍勢の進行を食い止めていた。そして、その踏ん張りに応えるかのように王国軍からの援軍が到着し王国軍とその青年によってオーガの軍勢を倒し、この村を救ったという。その青年はその功績を称えられ、後にこの村の村長になり村の平和を守り続けたそうな……そして、その青年の子孫こそが今の村長ということだよ。」


「その青年、たった1人でオーガの軍勢に立ち向かうなんてやるじゃねーか!」

「うんうん!かっこいいよ!」


 お婆さんの話に、アランとナタリーの2人は感動した様子で感想を述べていた一方で、イツキは何か引っかかるのか少し考え込むような仕草を見せた。


「何か引っかかったのか?」


 何やら引っかかる様子のイツキにエリノアはこっそり話しかけた。

 イツキは、自分の中の違和感をエリノアへぶつけることにした。

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