第19話 規格外な魔術師

 「しかし、アリシア……イツキ殿は大丈夫だろか……」

 「イツキくんの実力なら、クノンルデア森林の魔物には遅れをとることはありませんよ。ただ、光の魔術師に会うことができるかどうか」

 「イツキ殿がクノンルデア森林に向かって2日。果たして帰りはいつになることか……」


 アルベルト王はイツキの帰り……もとい、アリシア王女の心配し頭を抱えていた。


 「あ、あのぉー……帰りました」

 「い、いいイツキ殿!?!?」


 エリノアの転移魔法により王城へ戻ってきたイツキ達は王の側にポータルが開き出てきた。


 「やあ、イツキくん。早かったね。アリシア王女もご無事で何よりです」

 「マーシャルさん、ただいまです……」

 「お父様、マーシャル、ご心配おかけしました」

 「ところで、そちらの女性が?」

 「ああ、そうです。こちらが……」


 俺が紹介しようとするのを遮りエリノアさんは1歩前へ出た。


 「わたしが君たちが光の魔術師と呼ぶ、エリノア・シモンズだ」


 エリノアさんは何故か胸を張り得意げに自己紹介をした。


 「あ、貴女が、あの……しかし、いくら何でも……」

 「若すぎる……か?なに、簡単なことだ。その昔、実験に失敗してなぁ。暴発した魔法が偶然にも老化を止める作用があって老化が止まり20歳そこそこの見た目のままなんだ。最初こそ戸惑ったんだが、なかなかどうして、これはこれで便利なものでな」


 偶然で老化を止める魔法見つけるってある意味凄すぎないか……?

 というか、なんだよ老化を止める魔法ってこの人ホントにおかしいよ……


 「な、なるほど……では、本当に貴女が……」

 「だから先程から言ってるだろう?わたしがかつての勇者パーティーのソーサラー、エリノア・シモンズだ」


 エリノアはため息をつき、説明が面倒だという様子だった。


 「それで、ビューラ王妃はどこだ?」


 エリノアから問われたアルベルト王は急ぎ、ビューラの寝室へと案内をした。


 「ふむ……久しいなビューラ」

 「お……お師匠……」


 俺らがクノンルデア森林に向かってすぐ、ビューラ王妃の容態は悪化したようで、憔悴仕切っているといった様子で、エリノアを見ると安心したように眠りについた。


 「……これは、呪いだな」

 「呪いだと!?呪いならばビューラは自分で解呪出来るはずでは……」


 確かにその通りだ。

 聖女として高い実力を誇るビューラ王妃ならば、多少の病気や呪いを自分で治すことが出来る。

 それが、出来ないというのはどういう事なんだ……?


 「普通の呪い……ならばな」


 エリノアは一拍置いて話を続けた。


 「……これは、呪具を用いた呪いだ。いくら自分で解呪しようとも、この手の呪いは元を断たなければ意味は無い」

 「呪具…だと…?しかし、そのように怪しい物は」


 心当たりのない、と言うアルベルト王を無視し、エリノアは部屋の中を探し始めた。


 「……これだな」


 そう言うと、エリノアは部屋に飾ってあった花瓶を指さした。


 「それ、ただの花瓶じゃ……?」

 「見た目はな。だが、この花瓶には強い呪いが込められている」

 「その花瓶は……」


 アリシアは何やら心当たりがある様子で口元を押え驚いていた。


 「アリシア王女、心当たりがあるんですか?」

 「それは、以前お母様が治療をした女性からお礼にと頂いた物です」


 説明をするアリシアをよそに、エリノアは花瓶に手を当てなにやら探っている様子だった。


 「なるほど、この呪法は魔王軍のものだな。恐らく、聖女の固有スキルを持ち、どんな怪我や呪いも治すビューラは魔王軍にとって非常に厄介なもの……」


 なるほど、確かにエリノアさんが居ると、どんな怪我をした兵士も忽ち回復し、こちらの戦力を削ることが出来ない。だから、まずはビューラ王妃を排除することにしたのか。


 「イツキの考えている通りだ。だが、普通の呪いではビューラが自力でどうにかできる。そこで、元を断たなければ解呪することの出来ない呪具を用いた、という訳だ」

 「ならば、この呪具を壊してしまえばいいのだな」

 「それもそうだが、この呪具の製作者を直接排除する方がいいだろう」


 待っていろ、と言い残しエリノアは転移魔法を起動しどこかに消えた。


 「連れてきたぞ」


 エリノアは一瞬で戻って来た。

 ローブを着た女を連れて。


 「えっと、エリノアさん?その人は?」

 「ああ、こいつが花瓶に呪いを込めた本人だ」


 うん、よく分からん。

 今の一瞬でこの人を見つけて連れて来たと……

 何この人、怖っ……


 「エリノア様……その人を連れてきてどうなさるおつもりで……」

 「何簡単なことだ。直接解呪させ、二度とこんな事が出来ないように躾けるだけだ」

 「「「「し、躾って……」」」」

 「ということで、地下牢を借りるぞ」


 そう言うと、エリノアは再び転移魔法を使い地下牢に向かった。


 「ど、どうなるんだ?」

 「わ、わからん。だけど、あの人色々おかしいからあのローブの人……」

 「終わったね……」

 「終わりましたね……」

 「終わりましたわ……」


 元勇者パーティーの一員で伝説の魔法使い。

 うん。多分凄い惨状が繰り広げられてる……


 「……イツキくん。いくらなんでも疑い過ぎだよ。どんな人かは分からないけどそんな人には見えな……」


 マーシャルが喋り終わる寸前に、城中に悲鳴が響き渡った。


 「うん。やっぱり何でもないよ」

 「え、エリノア殿は一体どれほど恐ろ……」


 アルベルト王が失礼な事を言いかけた時、エリノアさんがローブの人を連れて戻って来た。


 「さて、解呪しろ」

 「わ、わわわかりました!!」


 ローブの女はエリノアに怯えながら瓶にかけられた呪いを解いた。


 「え、エリノアさん?その人は……」

 「ああ、魔王軍の1人だな。心配しなくていい、もう何も出来ないようキツく仕置きをしておいた」


 エリノアが笑顔でローブの女の肩に手を置くと、ローブの女は激しく頷き続けた。


 「し、師匠……?」


 解呪が済んだビューラは起き上がり、状況が飲み込めないといった様子だった


 「おお、ビューラ。どうだ?楽になっただろう?」

 「そ、そういえば……師匠がなぜここに?」

 「なぜってお前の娘がお前を助けて欲しいと頼みに来たからな」

 「アリシアが……」


 お母様!!とアリシアは涙ながらに叫び、ビューラ王妃に抱きつき泣き始めた。


 「アリシア、心配かけてごめんね?」

 「良かった……お母様が元気になって……」


 ビューラの呪いが解けた安堵からアリシアは大泣きしていた。

 そして、その2人を優しく抱き、アルベルト王もまた涙を浮かべていた。


 「感動のとこ悪いが……わたしはこいつを連れ1度自宅に戻る。もう悪さは出来んとは思うが、あの森で軟禁しておく」

 「ひぃー!!ご、ごめんなさい、ごめんなさい、もうやめてくださいー!!」


 な、何されたんだ……?

 この脅えよう普通じゃないだろ……


 ローブの女はものすごく怯えた様子でエリノアさんに連れて行かれた。

 元勇者パーティー……めちゃくちゃ怖いかもしれない……


 この人が人類側で本当に良かった、と心の底からそう思ったイツキだった。

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