第20話
あとからボソッと付け加えるなんてずるいじゃないか、かわいいに決まってる。
「いいけど、何か欲しいものあるのか?」
こいつの収入は知らないが、不便なく暮らしているところを見るとそこまで低くはないのだろう。だが、ここで「欲しいものがあるなら自分で買えばいいじゃないか」なんて言った日には、口も利いてもらえなくなるのは目に見えている。
すると彼女は人差し指を立てて振った。
「わかってないな〜!
運ばれてきた焼きそばの湯気で彼女の顔は見えない。それでも、何となくあのいたずらっぽい笑みを浮かべているのはわかる。
「せめてヒントくれよヒント、系統もわからんと難しいって。要らないもの渡したくないし」
「糸森が頑張って選んでくれたものならなんでも嬉しいよ」
いつの間にか目の前には取り皿に盛られた焼きそば。
ソースがかかっていないから、白い麺が目に新しい。
「逆に俺へのプレゼントはもう決めてるのか」
「いや〜まはひめへなひ!」
もごもごと口に麺を詰めながらの返事。子どもか。突然大人びた雰囲気をまとったり、幼くなったりでもう年齢がわかんねぇな。いや、同い年だけども。
「まだ決めてないって言った?」
「さすが!正解!」
ごくんと喉を慣らしてから、今度は親指を立てる双葉。
「正解の商品として欲しいものを教えてくれ」
「ばかね、ほんとにわかってない、昔から」
この話はおしまいとばかりに、彼女はコップに手をつける。仕方ない、自分で考えよう。
昔からって、プレゼント交換するのは初めてだろうが……だが、そういう話でもないのだろう。
焼きそばを貰った手前、俺のお好み焼きも渡さない訳にはいかないだろう。
円を2等分、4等分と分けていき、取り皿に移して彼女へ渡す。
「ありがと」
「焼きそばもらっちゃったしな」
「そういう気遣いはできるんだから」
気が付けば鉄板の上は空、残っているのは心地よい満足感とほんの少しの休憩だけだ。
「やべ、戻らないと」
急いでお会計を済ませて外へ出る。
ぐぐっと上に腕を伸ばして太陽を浴びる双葉。動物みたいな仕草だな。
ニットワンピの裾がずり上がるのが視界の端に映り、少し気まずい。
「見た?」
「見えてない」
パシッと肩をはたかれる。そういえば朝も肩を小突かれたっけ。
「見てるじゃん」
先程別れた信号へと再び足を進める。彼女はこのまま家に帰るらしい。フリーランスっすげぇ。
これから彼女を知っていくためにどうすればいいんだろう、なんて殊勝なことを考えながら、自販機でコーヒーを買う。
ぼーっと歩いていた俺は、何歩か後ろを歩いていた桜河には気が付かなかった。
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