第23話
内線電話をくれた部署へ到着すると、見えたのは艶やかな黒髪。
あれ、やっぱり双葉じゃないのか……?じゃあどこから俺の社員証は出てきたんだ。
「あの、」
後ろから声をかける。
くるりと振り返った彼女を見てハッとする。すらっと通った鼻筋にまんまるな瞳、片方だけ上がった口の端は昨日も見たまんま。
ふわっと香るいつもの匂い。
「お前……双葉、髪……」
文章にならない単語が口から溢れる。予想通り、目の前にいたのは双葉まといそのひとだった。ただし、あの美しい金髪は真っ黒になっていたが。
「お、やっほ〜糸森!」
いつもと変わらない調子で彼女は俺の名前を呼ぶ。高校生時代の記憶が今なお根強く残っているからか懐かしく感じるが、その大人っぽい表情に頭が混乱する。
そんな俺の気持ちなどどこ吹く風、彼女は肩に掛けた鞄から俺の社員証を取り出すとこちらへ差し出した。
「ほい!昨日私の部屋に忘れてたよ」
刹那、俺の後ろで息を飲む音。
おい、こんな白昼堂々双葉の昨日部屋に行った話とかするな。絶対勘違いされるだろうが。
せっかくこの前桜河の誤解を解いたばかりなのに。
「ありがとうな……お前いつの間に髪染めたんだよ」
とりあえず自分の疑問を解消すべく質問を投げる。本当はさっさと退散した方がいいんだろうが、混乱した頭ではまともな判断ができるはずもない。
「いやぁ糸森の会社行くからさ〜ウィッグ被ってきた!」
そう言って髪をかきあげると、彼女の指の隙間からあの金髪がちらっと見えた。
良かった……何に安心しているかわからないが。
「それじゃ、私はこの辺で〜」
「ごめんなさい、」
帰りかけた双葉を止める声。先程までだんまりだった桜河が一歩前に出る。
「あの、糸森君とはどのようなご関係で……?」
おい余計なこと聞くな。俺にならまだしもこいつは何言うかわかんねぇぞ。
慌てて止めようとするも、双葉と桜河2人からの視線で足が止まる。うわ、こえぇ。
「え〜っと、?」
困惑した顔で双葉は口を開く。そりゃそうだ、お前誰だよ状態だよな。
「あ、申し遅れました。糸森君とは
やけに強調するなぁ。
もうここまで来たら俺は置物のように固まっとくだけだ。大丈夫、彼女たちは自己紹介をしているだけ。
というか何で俺がこんなに気まずい思いをしなきゃならんのだ。
「ご丁寧にありがとうございます……私は」
不敵な笑みを浮かべる双葉。
「私は、糸森の学生時代の同級生で一緒に外を散歩したり部屋で晩ご飯を食べたりする関係の、双葉と申します、ではまた!」
2人の間では、微かに気温が上がったような気がした。
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