第2章

第22話 恋人のふりをするなら君とがいい

『糸森さん、お知り合いの方が窓口に来られていますが……』


 別の部署からの内線。客じゃなくて知り合い……?最近昔からの友人と飲みに行ったり同窓会に参加したりもしていないから、俺がこの会社に勤めてることを知ってる人間はそこまで多くないはずだが。


 今はこの部屋からあんまり出たくないんだよな。今日は社員証を忘れてしまって、カードキーで開くタイプのドアは誰かに開けてもらわなければならない。


『名前とか聞いてます?』


『申し訳ないです、聞きそびれてしまって……』


 仕方ない、外出るか。

 桜河にあらかじめ言っておけば帰ってきた時に鍵を開けてくれるだろう。


 それにしても社員証、どこに置いたっけな……帰ってきたらいつも鞄にしまって次の日まで出さないはずなんだが。

 昨日は確か双葉からの「作りすぎた〜」ってチャットにほいほい誘われて、彼女の部屋でご飯を食べて……意外と自室に戻るのが遅くなったからシャワーを浴びたらすぐに寝て……。


 確かに双葉の部屋に行った時には社員証があったのを覚えている。忘れて帰ったか?


『あ、あと、糸森さんの社員証を持ってきたから早く取りに来てっておっしゃられています』


 双葉じゃねぇか。

 ありがたいが、先に俺にチャットしてくれればいいものを。


『あの、来てる人って金髪だったりします?』


 彼女のトレードマークといえばあの綺麗な髪、これで確定だろう。


『いえ……黒髪ですが……』


 は?どういうことだ。じゃあ一体誰が。

 頭に疑問符を思い浮かべながら、今すぐ取りに行く旨を伝えて電話を切る。


「桜河、忙しいところすまん」


「ん?どうした〜?」


 向かいのPCからひょこっと頭が出てくる。


「なんか俺の落とした社員証届けてくれた人が来てるらしくて、今から取りに行ってくるから、帰ってきたらドア開けてくれんか」


「そういうことなら」


 彼女は立ち上がると俺の近くまで歩いてくる。

 手を差し出しながら微笑んで一言。


「一緒に行こ」


 もし社員証を届けに来てくれたのが双葉だったらかなり面倒なことになるな、なんて考えながら俺は桜河の手を掴んだ。

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