第4話

 改札を抜けエスカレーターへと足を進める。定時退勤の日は人の波に逆らわずに進むのが吉。

 同じ電車にこんなにも人が乗っていたのかと、毎度のことながら驚いてしまう。


『最寄りついた』


 一応双葉に連絡を入れておく。結局退勤時間を聞いてきたのはなんだったんだ。


 家に向かおうと駅構内から出たところでスマホに着信。


「はい」


「お疲れ様〜!双葉ちゃんですけれども」


 朝よりテンションの高い声。ってかなんだ双葉ちゃんて、俺たちもうアラサーだぞ。


「声でわかるわ、ってかどうした」


「いやぁ18時に帰ってくるって言うから」


「ん、なんか買って帰ったらいいのか?」


 早めに行ってくれれば家までのスーパーに寄れるが。料理してて調味料でも切らしたか?


「違うってば!とりあえず右向いて歩いてきて」


 言われるがまま右を向く。

 壁にもたれてスマホを耳にかざすのは双葉まといその人だ。


「わざわざ来たくれたのか?」


「んーん、通りかかっただけ」


「なんじゃそりゃ」


 朝にも見た全身黒のカジュアル系コーデにキャップ、真っ黒なサラリーマンたちのスーツも相まって金髪が映える。

 通りがかる人たちがみな一度は彼女に視線を投げているところを見ると、やはりスタイルと顔の造形の良さをしみじみと感じる。

 俺なんて多分地味すぎて転けても誰にも気にされないぞ。


「あれ、こっちの道になんかあったっけ?」


 駅から家までの最短経路とは違った道を歩いている。こっちを通っても住宅街にぽつんとそびえ立つコンビニしかないはずだ。


「いいのいいの、歩くのが大事なんだから」


 駅を出た時よりも少しペースを落とす双葉。否応なしに俺も歩くスピードを遅くする。


「今日もお疲れ様」


 周りに人が少なくなると、彼女は落ち着いた声で言葉を紡ぐ。


「ありがとう、双葉もな」


「ん」


 季節柄もあってか空はもう暗い。コンビニと街灯の光だけが周りを照らしていて、双葉の顔はよく見えない。


「私ね、こうやってゆっくり外を歩くのが好きなんだ」


 心底嬉しそうな声色。


「夜の散歩ってさ、誰かと会うこともなければ話しかけられることもないじゃん?」


「そりゃ声掛けたら事案だからな」


「む〜……そういうことじゃないの!」


 腕をぐっと伸ばして深呼吸、冷えた空気が肺を満たす。

 確かに、こうも人通りが少なくて音もしないとなると、世界に自分たちしかいないような錯覚に襲われる。


 孤独だけど孤独じゃない、日常生活では味わえない不思議な感覚だ。


 時間にすればほんの2.3分、けれどどこか長く感じる沈黙。


「ね、いいでしょ?」


 言葉は少なくていい。


「おう」


「それじゃ、行こっか」


 彼女は元の元気な雰囲気を再びまとって、この住宅街唯一の大きな光源へと進んで行った。

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