第5話

 大きな自動ドアをくぐって中に入るとそこはもう別世界。真っ暗な外とは真逆で、思わず目を細めてしまう程に明るい。


「コンビニってすごいよね、どこのコンビニ入ってもお店の中の景色も匂いもほとんど一緒で」


 改めて双葉から言われてその異質さを再認識する。たとえ異世界に店舗があったとしても、そこでだけは日本を感じることができるんだろう。


 入ってすぐに棚があって奥にレジが設置されているのは店内をぐるっと一周させるためだ、なんて聞いたことがある。

 あれ本当なんだろうか。


「糸森、なに飲む?」


 冷えたお酒の陳列棚を前に思案顔の双葉……って酒飲むのか。一瞬高校時代に自販機前で同じ会話したのを思い出したが、あれももう10年前か。


「何しみじみした顔してんの、お酒飲めない?」


「いやすまん、昔のこと思い出してた。ビールにしようかな」


「あー、あれでしょ、学校近くの自販機」


 得心がいったと彼女は頷く。

 なんだっけ、確かテスト期間が終わったあとの……。


「私がテストで負けて奢らされたんだよね〜」


「人聞きの悪い、元々そういう勝負だったじゃねぇか」


 各科目の合計点で勝負してたんだっけ、懐かしい。そういえば双葉とはいつの間にか話すようになってたんだよな。最初のきっかけは忘れてしまった。

 家が近いこともあって親同士では交流があったみたいだが。


「今の話聞いてこっちが飲みたくなっちゃった」


 彼女はお酒の棚の扉を閉めると、隣のノンアルの棚へ視線を移す。

 中から取りだしたのはミルクティー。あぁあの時の。


「いいな、俺もそれにしよっと」


 双葉の後ろから手を伸ばして同じラベルのペットボトルを取り出す。


「へへ、おそろい」


 嬉しそうに笑うと、彼女はててっとごはんコーナーへと駆けていく。

 どれだけ大人になって綺麗になったとしても根本は変わらないのだ。それがどこか嬉しくて。


 さて、俺は晩御飯後のデザートでも見繕うか。

 甘味コーナーには和洋問わず、小さくパッケージされた商品がずらりと並んでいる。


「小さなみたらし団子もいいな……カスタードたい焼きも気になる……」


 いつの間にか会計まで終わらせた双葉が後ろから声をかけてくる。


「うわびっくりした、もう買ったのか?」


「うん、お会計してきた!糸森も早く早く」


 急かされるままレジでお会計。

 高校時代は財布の小銭の残りを気にしながら払ってたっけ……今ではスマホをかざすだけだもんな。大人になることは、悪いことばかりじゃない。


 ビニール袋の重みを感じながらコンビニから脱出、やはり自動ドアの中と外じゃ世界が違う。


「結局双葉は何買ったんだ」


「聞いて驚くなよ〜……じゃん!」


 彼女ががさごそと取り出したのは小さな紙の袋に入ったチキン。


「そしてそして、お散歩に付き合ってくれた糸森にはこれを進呈しよう」


 陽気な声とともに手渡されたのはもうひとつのチキン。袋を真ん中でちぎると、なんとも食欲をそそられる匂い。

 これも昔を思い出す。帰り道に買ってたなぁ。


 物思いに耽っている俺を他所に、彼女はもう待ちきれないみたいだ。


「たまにはいいでしょ、こういうのも」


 そう言うが早いか、双葉は大きな口でチキンにかぶりついた。

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