第6話
少し残業して帰宅、今日は例の送り迎えはないみたいだ。そりゃ毎日一緒にいるのもおかしな話か。
一人暮らしだと頭の中で自分の声がくるくると回る。無意識に冷蔵庫を開けて今日の晩ご飯の献立を考える……野菜が少ないな、そろそろ買いに行かないと。
ピンポーン、と聞き慣れたインターホンの音。画面を見ても誰も映らない。
ん?ちょっと待てよ、これ1階入口じゃねぇな。
早足で廊下を抜けて玄関へ、覗き窓から外を見ると何かを持った双葉が立っていた。そりゃ同じマンション内だったらわざわざ一旦ロビーに出てインターホンを鳴らすわけないか。
ドアを開けると彼女はにっこり笑う。
「糸森〜!鍋しようぜ!」
どっかのお魚系アニメの野球みたいな誘い方するなよ。
彼女はミトンで湯気立つ鍋を掴んでいる……というかそんなコテコテの展開があってたまるか。
しかもやるならカレーとか肉じゃが作りすぎましたってやつだろ、鍋て……もう一緒に食べる気満々じゃねぇか。
「鍋、持ってきちまったのか」
「そそ、しかも蟹だよ蟹!」
「どっから出てきたんだよその蟹は」
「ふるさと納税!蟹鍋セット頼んじゃった」
社会人あるあるだ。どう考えても1人で食べきれる量じゃない魚介類やら肉やらが届くんだよな。
いやまぁ自分で選べるし、なんなら冷凍で届くから保存はきくはずだが……ここで追い返すのも野暮ってもんだ。ありがたくご相伴にあずかろう。
「まぁ晩飯考えてたところだし入っていいぞ」
そう言って家の中へと彼女を招き入れる。
「そこは何も持ってなくても入れてよね」
「図々しいやつめ」
間取りが同じだからか双葉は迷いなく廊下をぬけてリビングへと進んでいく。遠慮がねぇな遠慮が。
そのままテーブルに鍋を置いてクッションにちょこんと座る双葉。
「どうしたこっち見て」
じっと視線を感じる。悪いことはしていないはずなのに、少し居心地が悪い。
「なんか部屋綺麗じゃない?」
確かに週1では掃除してるが普通だろ。
テーブル下、クローゼット、テレビと視線を移していく。
「……彼女?」
「お、喧嘩なら買うぞ」
「いないならいいや〜!」
彼女はふぅ、とため息をつくとキッチンへと向かう。
なんなんだ一体。
食器棚から2人分の食器を取り出して手渡す。
「やっぱり女の人いるでしょ」
「いねぇよ」
「じゃあなんでお皿とかコップとか全部2人分あるの。しかもちょっとかわいいやつ」
「昔の……な、」
この話題やめようぜ、俺が傷つくだけだろうが。
なんとか彼女を追い立ててリビングへ戻る。
ぷんすこしている双葉をクッションに座らせコップにお茶を注ぐ。
「な、冷めないうちに食べようぜ」
「後で絶対聞くからね!」
なんとか晩ご飯にありつけそうだ。
一瞬の沈黙、どちらともなく手を合わせて俺たちは口を開いた。
「「いただきます!」」
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