第7話
贅沢に蟹を口へ放り込む。他人の納税でご飯が食べられるなんて、そんな幸運があっていいものか。
ちゅるんとした舌触りに旨みが詰まった身、圧倒的な満足感を覚えて息を吐く。
「うんまぁい」
「ねね、他の食材も蟹の出汁吸ってるからいつもと違う」
まぁ双葉がいう「いつもの鍋」も食べてみたいところではあるんだが。
「一気に高級感というかお店感でるよな」
「わかる。あーお酒飲みたくなってきたなぁ」
チラッチラッと冷蔵庫のあるキッチンに視線を送る双葉。仕方ない、蟹鍋なんて出されたらこちらもお酒の一杯や二杯はご馳走しなければ失礼というもの。
「ビール、チューハイは缶があって……あぁ、ウイスキーもあるからハイボールとか」
「じゃあじゃあ!ハイボールで!濃いめがいい!」
酒飲みじゃねぇか。
寒い日に蟹鍋とハイボール、うん、完璧だ。
せっかくだから自分用と双葉用の2人分作ろう。
少し背の高いグラスに氷とウイスキー、泡が立たないようにゆっくりと炭酸水を注ぐ。
彼女の分は濃いめにすることも忘れない。
こうやってゆっくり何かを作る時間が好きだ。
コーヒーを蒸らす時、ビーフシチューを煮込んでいる時、あと少しで終わる洗濯機を待っている間だったり。
いつの間にかテーブルからキッチンに移動した双葉が、後ろから顔をにゅっとのぞかせる。
「嬉しそうじゃん」
「こういう時間、嫌いじゃないんだよ」
「
無数に弾けては消えていく小さな泡を見ながら、彼女は穏やかな顔で笑った。
やがてグラスは淡いオレンジ色に染まり、ふわっとアルコールの香りが漂う。
「ほれ」
彼女に色が濃い方のグラスを手渡して一緒にテーブルに戻る。
「あれ、糸森も飲むの?」
「ハイボールって聞いた瞬間、俺もハイボールの口になった」
「へへ、おそろいだ」
ゆらりと振ったグラスの中で、氷がぶつかりカチン、と音が鳴る。
よく考えれば高校時代の同期と自分の家で一緒にお酒を飲むなんて贅沢だよな。
「せっかくだし」
双葉ばそう言うとグラスをずいっと前へ持ち上げる。
自分で持つよりも大きく見えるな、なんて的外れなことを綺麗な白い手を見て思う。
徐々に近付くグラスはやがてぶつかり、小気味のいい音を響かせた。
「「乾杯!」」
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