第3話

『今日何時に終わる?』


 そんなチャットがスマホを彩ったのはお昼休み。コンビニで買ったサラダチキンを咀嚼しながらぼんやりと眺める。

 たぷたぷとスマホに指を走らせる。


『なんで』


『質問に質問で答えない』


『18時には職場出たい』


『りょ』


 そこで返事が返ってこなくなる。おい、質問には答えるのが筋だろうが。

 それに俺の退勤時間を知ってどうするんだ。え、あれか?何か並ぶ系のスイーツとか買って来いってことか?それならあいつ在宅なんだし自分で行くか。

 というかそんなこと頼むなよ。


 頭の中で悪い顔をする双葉の株がどんどん下がっていく。現実のあいつは何も言ってないが。


「なんて顔してんの、糸森君」


 前から声をかけられてハッとする。スマホをスリープにして机へ滑らせる。


「そんなやばい顔してたか?桜河」

 

 はぁ、とため息をつく彼女。

 桜河とは新卒で同期入社、同じ部署に目の前の席と、ここ数年はずっと日中同じ場所にいる。

 喜びも悲しみも分かち合った言わば戦友だ。


「眉間にシワより過ぎて川できてた」


 自分の頭がハテナで埋め尽くされていく。


「ごめん待って、状況がわからなさすぎる」


「冗談冗談、なんかやばいことあった?」


 頭をこてんと倒すと、肩口に切りそろえられた黒髪が揺れた。まるでカーテンのように流れる黒い波に目が奪われる。


 コミュニケーション能力が限界突破した彼女は、そのさばさばした性格も相まって社内人気も高い……らしい。俺は常に一緒にいるから、もはや兄妹みたいに感じてしまうのだ。


「いや、なんもない」


「ならいいんだけど」


 どうでもいい会話をしていたら時計が昼休みの終了を知らせる。途端に鳴り響く内線。もう全員社内チャットでやろうぜ……。

 どうせ新規案件だろうな、なんて諦めながら受話器に手を伸ばす。


「あ、それ私もらうわ」


「まじ?かなり助かるけど」


「今度コーヒー奢りね〜」


 こんな感じで俺が手いっぱいのときは、さくっと巻きとってくれるから正直助かる。

 それで自分の元々持っている仕事まであっさり終わらせるのだから、そのしごでき度には完敗だ。いやぁ同期でよかった。

 とりあえずの感謝として、自分の引き出しから飴を一つとりだして彼女の机にシュート、目の前のPC裏からひらひらと手が振られる。



 そこから数時間、ようやく本日分のタスクが消えてくれた。

 毎日一応全力で働いているはずなのにシステムに溜まっていく案件は一向に減ってくれない。常に残業ってわけじゃないのが救いか。


 ちらっと時計を見ると17時45分。双葉に言った手前、そろそろ出るか。


 荷物をまとめて周りに軽く挨拶、相変わらず返ってきていないチャットを横目に、俺は会社のドアを出た。





◎◎◎

こんにちは、七転です。

たくさんの方に読んでいただいててびっくりしてます……!ありがとうございます。

今作はちゃんと主人公に名前があります(それだけでめちゃんこ書きやすい)


毎日1,000字前後を通勤電車で書いていると、昨年の今頃を思い出します。

残業の日はヒリつきますね、今日は更新できないんじゃないかって。

それでも書きだめはしません(できない)


来週は寒くなるらしいので、皆様毛布のご用意を。

ではまた!

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