第2話

 足を前へと進める度に跳ねる金色の光。まるでステップを踏むかのように軽い足取りは、見ているだけで心が幾分軽くなる。


 信号に捕まって立ち止まると、彼女はキャップを被りなおした。


「そんなに出勤いや?」


 不思議そうに双葉は口を開く。お、それは宣戦布告か?

 この時間の社畜なんて全員考えていることは同じなんだから。


「言うまでもなく」


「でも会社の人と会えるじゃん」


「友達じゃないからな、別に……」


 信号が青になる。会社に行きたくない気持ちが強すぎるからか、自分の歩幅は彼女の歩幅よりも小さい。


 もうそろそろ駅が見えてくる。まるで兵隊の行進のように、横並びに広がった社畜たちは統率の取れた動きで道を曲がった。

 その中でも双葉だけはまるで遊撃部隊のように自由だ。小さな声で鼻歌を歌いながらずんずん前を歩いていく。

 やっぱり送り迎えじゃなくて犬の散歩だな。


「私もちょっと前は会社員やってたんだよ」


 遠くを見るような目で彼女は話す。


「え、その髪の色で……?」


 流石に営業や窓口で金髪は攻めてるだろ。

 そんな的外れな思考を知ってか知らずか彼女は頭を振る。


「その時は黒髪だったよ」


 そりゃそうか。


「なんで辞めたんだよ……あ、言いたくないならいいわ」


 俺たちは昔から、それこそ10年前からの知り合いだが、何もこの10年間のことを全部知っている訳ではない。


 双葉はあごに指を添えて目線を上げる。思わずそのつるんとした肌、少し上の赤い唇に視線が吸い寄せられる。

 美人は何をしても様になる。


「んーとね、」


 丁寧に、まるで線香花火を落とさないよう気遣うかのように、彼女は言葉を選ぶ。


「人間関係とかのしがらみかな〜」


 もう駅は目前、後はエスカレーターを上がればお別れだ。


「そっか、今が楽しいならそれが一番だな」


 強引に話を切り上げる。惜しいところではあるんだが。


 周りの景色を見て双葉はハッとする。こいつ話すのに夢中で駅に着きそうなの気付いてなかったな。

 腕時計を見ると、そろそろ電車が来る時間。これ以上話している暇はないか。


「またゆっくりできる時に話そうぜ」


「ん、わかった!ならさ、」


 足を止めた双葉を振り返る。

 キャップを外して顔の前に持ってきた彼女はぽしょっと呟いた。


「ならさ、私の知らないこともちょっとずつ教えてよ」

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