街を歩くなら君とがいい

七転

第1章

第1話

 思いがけない場所で思いがけない人に会う、なんて経験をしたことはないだろうか。

 駅のホームで、会社のオフィスで、旅行先で、昔からの知り合いにばったりと。


 そんなどこにでもあるような、それでいて生活がガラッと変わるような経験を、俺は今現在進行形でしている。


 マンションのドアを押し開ける。腕にかかる重さは出勤への拒否反応に他ならない。


「うわ、まぶし。帰ろうかな」


 秋晴れの空に目を細めた。

 先月とは打って変わって乾いた空気にアラサーの肌は悲鳴をあげている。

 このままくるりと振り返って自室に帰り布団に包まれたい欲が社会人としての理性と必死で戦うも、僅差で出勤に天秤が傾いた。


「馬鹿なこと言ってないで早くいくよ!」


 前を歩くのは双葉 まとい。俺の昔の友人だ。

 スウェットにパーカーという出で立ち、頭に被ったキャップがよく似合う。


 彼女の長い金髪は太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。カジュアル系ギャル、朝から元気すぎだろ。


 なぜ彼女がうちのマンションの前にいるのか。答えは簡単、双葉もここに住んでいるからだ。


 俺も彼女も26歳、俺は社畜で彼女は在宅フリーランス。

 高校卒業と同時に会うこともなくなりはや10年ほど、家族同士で年賀状のやりとりだけの関係だったが、つい最近彼女がこのマンションに引越してきたのだ。


「お前は駅までかもしれんが、こっちは職場までなんだよ……」


「私だってこの散歩終わったら仕事なんだから一緒だって」


 こうやって週に何度か、俺の出勤に合わせて彼女は散歩をする。

 なんでも送り迎えをしてくれているらしいが……いや、どう見ても犬の散歩だろこれは。


 周りのサラリーマンたちも死んだ目で歩く中、こいつだけはその髪から反射する光に違わず、目をキラキラさせている。


「なぁ、なんでそんなに元気なんだ」


 昨日の疲れをまとった声が口から洩れる。


「ん〜誰かと一緒にいる時は元気な私を見てほしいから」


「激強メンタルじゃねぇか」


 彼女はにっこり笑うと1歩だけ前に出て振り返る。


「久しぶりに会えたんだし、堪能してってよ」


 双葉はそれだけ言うと前を向く。空いた1歩分の距離を俺に埋めさせるかのように、歩幅を小さくした彼女の耳は赤かった。


 きっと、肌寒くなった秋のせいだ。

 






◎◎◎

初めましての方は初めまして、そうでない方はお久しぶりです、七転です。

通りすがりの絶対純愛ハピエン厨のラブコメ屋さんです。

どうぞお付き合いくださいませ。



派手髪カジュアル系元気ギャルはいいぞ。

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