第11話
一昔前と比べて静かに車は前へと進む。会社の駐車場から発進した俺たちを乗せた社用車は、ビジネス街を泳いでいく。
こんなに重い金属の塊を自分が操作しているなんて、まるで戦隊ものの主人公になったかのようだ。
冗談はさておき、隣を盗み見る。
「見てるのバレてるわよ」
どんな反応速度してんだよ。横目だぞ、しかも交差点の左を確認するついでに。
「すまんすまん、やけに静かだなって」
「運転の邪魔しちゃ悪いかなって」
車はなおも進む。朝は混んでいる道路も、昼前なら少しましだ。
運良く信号には捕まらないのは、こいつの運がいいからか。
「むしろ話してくれた方が落ち着くわ、俺は」
ウインカーを出す。右折の時はくっと集中力を使うからしんどいんだよな。
何年も運転しているが未だに都会の道は慣れない。
「そ、じゃあ遠慮なく」
今日行く取引先の話、最近物価が高い話、契約書も紙じゃなくてデータになればいいって話、まるでラジオでも聞いているかのように、彼女の話がbgmになる。
「いや、全部データになったらサボ……ん゛ん゛、外回り行けないだろ」
「それもそっか」
ぐぐっと彼女は前に伸びをする。
シートベルトのせいか、身体のラインが浮きでている。
声が出そうになるのを何とか抑えて、俺は目を逸らした。
「話してたら喉乾いちゃった」
そんな俺の気を知ってか知らずか、彼女は飄々と呟く。
「当初の予定通り今からコーヒー買うか?」
そういえばコーヒーを奢るために外まで来たんだった。時計を見ると12時少し前。
「あ、ってか桜河、相手さんに何時に行くって言ってんだ。間に合うか?これ」
「午後イチって言ってる。でも別に何時でもいいってさ」
じゃあ11時から外勤入れてるのアウトじゃねぇか。外で飯食いたいだけだろ。
「お前……」
「いいじゃない!たまには外で気分転換したいの!」
ぱしぱしと自分の膝を打つ桜河。普段はさばさばと仕事をこなしている彼女からは考えられない行動に頬が緩む。
「俺が弁当とか持ってきてたらどうするつもりだったんだよ」
「ないでしょ、いつもコンビニご飯なんだから」
ぴしゃりと言い当てられてしまう。
その通りなんだが……遠慮がないのは曲がりなりにも育ってしまった友情かそれとも。
まぁこうやって外に連れ出してくれてるんだ、文句は言うまい。
「はいはい俺の負けで」
「やけに早い降参だこと」
「腹減ってきたんだよ、何食べる?」
彼女は掌をこちらへ向ける。少し待てってことか。
「う〜ん何にしようかしら」
どこか声を弾ませて、彼女はたぷたぷとスマホに指を走らせた。
◎◎◎
こんにちは、七転です。
ぎりぎりの更新!
これは私に限らずですが、「ええやん」と思ったら♡と☆、付けてあげてくださいね……!
かなり作者のメンタルにいいので。
いつも応援してくださる皆さんのおかげで私の心の平穏は保たれています。ありがとうございます。
かく言う私も「ええやん」と思ったら迷いなく押してます。
昼間は暖かいかと思えば風が吹くと身体が冷える季節になりました。どうぞ体調にはお気をつけくださいませ。
ではまた!
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