第15話

 いつものごとく彼女へついていく。今日はこの前みたいに回り道せず帰るみたいだ。

 さすがに寒いのか、彼女はダウンを着ている。色はもちろん黒、やはり映える金髪が目に眩しい。


「糸森は彼女さんとかいないんだよね」


 甘い香りと共に風に乗って運ばれてくる少し冷たい言葉。前に鍋した時にもいないって言ったはずだろ。


「いたらお前を家には入れてないって」


「へへ」


 なんの意味もないやり取り。

 おそらく……おそらく、彼女は俺のことを悪しからず思ってくれてるんだろう。

 でもそれが何によるものかわからないのだ。


 一度気になり出すと止まらなくなってしまう。


 季節が進めば進むほど、街の灯りに懐かしさを覚えるのはなぜなのか。いつかみたいに遅くないから、周りにはまばらながら人影が見える。


「ほらみて」


 針に糸を通すような細い声で双葉は言葉を紡ぐ。ふっと目の前を彼女の手が通り過ぎる。

 右手の薬指を指しながら彼女はにんまりと笑う。


「彼氏いませーん!いぇい!」


 「いぇい!」じゃないんだよ。なんでさっきはちょっと言い辛そうにしたんだよ。

 くそ、毎度毎度からかわれてばかりだ。


だから・・・、だからこの街に引越してきたの」


 声のトーンを戻して、静かに彼女は呟く。


 なんだか大事なことを言ってたような気がするが、安心感でちゃんと聞いてなかった。


「いないならいいか」


「そう、いいの」


 いつの間にか前を歩く彼女は隣に。


 ふと足を止める。

 今やっと気がついた、彼女が俺の歩幅に合わせてくれていたことに。

 誰かと一緒にいる時、自分のペースで自然に歩けていることは異常なのだ。


「その……ありがとな」


「突然何、迎えに来たことに?」


 何歩か歩いた双葉も、足を止めて振り返る。


「それもあるが色々と」


「それもあるんだ……大人になったねぇ」


「俺のことなんだと思ってるんだ」


 失礼なやつめ。お前は俺の親かなにかか。


「私の中の糸森はずっと高校生なんだよ。糸森の中の私と同じようにね」


 こいつはたまに鋭いことを言うから困る。

 天然なのか計算なのか……後者だとしたら尚更たちが悪いが。


「だから」


 もうマンションは目前、いつものドアにいつもの光、いつもと違うのは彼女の大人びた雰囲気だけ。


 先ほど香った甘い匂いにほんの、ほんの少しだけぴりっとしたものが混ざる。


「だから、私の知らない糸森のこと、ゆっくり教えてね」



 

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