第14話

『クリスマス何すんの』


 桜河と外回りした日の帰り道、双葉へチャットする。実際何するか分からないままだと予定が立てられない。

 こんな唐突な連絡にすぐ返事をくれるのが双葉クオリティだ。


『まだ決めてない!』


『見切り発車か』


 とはいえ返ってきたのは何とも間抜けな返事。突然誘ってきて何も決めてないのかよ。というか。


『お前、彼氏は?』


 これは一応確認しておくのが礼儀だろう。……アラサーにもなって礼儀も何も無いが。


 彼氏がいようもんなら今すぐに連絡を断つ。痴情のもつれに巻き込まれたくない気持ち6割、30も手前になって何をしてるんだこいつはという気持ち3割、残りは……まぁ言わなくてもわかるだろう。


『ノーコメントで』


『いや1番大事なことだろうが』


 変なところでのらりくらりしやがって。

 電車が揺れてつり革が頭にコツン、と当たった。窓を駆け抜けるビルの残像に心がざわつく。


 少し逸る気持ちを抑えてスマホに指を走らせる。追求すべきか、ここは流されておくべきか。

 不意にあの綺麗な金髪を思い出す。次いでふわっと香る甘い匂いも。


 今でもわからないのだ、なぜ彼女が今更俺の住むマンションに引越してきたのか。

 まぁ「今更」になった片棒は俺が担いでいるが。


 既読は付いたが返ってこない連絡。

 だがこれでいいのだと自分を納得させる。とりあえず24日はあいつの家に行けばいいんだろう。


 社畜を乗せた電車が駅に滑り込む。

 疲れた人混みに紛れて改札を出ると、視界に金色が映った。


 くるっと振り向いた双葉。


「やほ、おかえり」


「ただいま、なんでここにいるんだよ」


 悪戯が成功した時のような幼い表情に心臓が揺れた。数年前がフラッシュバックする。


「私を舐めてもらっちゃ困る!」


「答えになってないだろうが」


「チャット来たから駅に着きそうな時間に迎えに来た!」


 突拍子もないことをするのは昔から変わってないらしい。

 思いつきで、というか本能で行動しすぎだろ。


「俺がどこか寄って帰るの遅くなったらどうするんだ」


「電話かけまくるかな」


「鬼かよ」


 吐く息は白く、よく見れば彼女の耳や手先は赤くなっている。どうやら待たせてしまったらしい。


 そのまま彼女を連れ立って自販機で缶コーヒーを2つ買い、1つを双葉に投げ渡す。


「突然なに?もらうけど」


 目を丸くした彼女の口から疑問がこぼれる。


「いや、待たせたみたいだから」


 赤くなった耳に向いた視線に気が付いたのか、双葉は目をついっと逸らす。


「ばか、そんなところばっか気付かなくていいの」

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