第18話
『昼休み入った、こっちいるか?』
時刻は12時ちょうど、双葉にチャットを送る。すぐに付く既読、それはもう送った瞬間に。
ずっとスマホにかじりついてんのか?こいつは。
『いるいる〜迎えいこうか?』
『むしろ俺がそっち行くけど』
会社の近くで金髪ギャルと昼休みに話している姿なんて見られてみろ、その日の夕方には部署内どころかフロア中に広まるに決まっている。
『なんか食いたいものあるか?』
『ジャンクなのがいい!家で仕事してたら自分で作っちゃうし』
なんて貴族的な発言。ここ最近自炊なんてしていない。もしキッチンにも神様が宿るなら、今頃泣いてるだろうな。
とはいえハンバーガーはこの前食べたし……俺が桜河とだが。
この短い昼休み内で食べられてそこそこジャンクで家ではしないようなランチ……。
ふと目に入った看板に惹かれる、鉄板か……お好み焼き、もんじゃ、焼きそば、とんぺい焼き。
ぐぅと低くお腹が声を上げる。彼女次第ではあるが、鉄板を推してみよう。
周りを見ると同僚たちもお昼の準備をしている。
桜河と目が合うも、俺が外に食べに行くのは珍しくないからか、ひらひらと手を振るに留まった。
よかった、変に話してしまうとボロが出る。
双葉がいるカフェを聞いて会社のエレベーターに。
朝は2人で来た道を1人で歩く。
そういえばこの信号で別れたんだっけ。少し進むとガラス張りのお店が見えてくる。
肘をつきながら顔を手のひらに乗せる彼女は、外から見るとまるでドラマか映画のワンシーンみたいで。
カフェの落ち着いた照明も、彼女の眩い金髪を隠し切ることはできなかったみたいだ。
黙ってれば美人……いや、口を開いても美人なことにかわりないか。
双葉は俺に気がついたのか、ちゅっと投げキッスをする。やめろ恥ずかしい。通行人もそそくさと俺の隣を抜けて歩いていく。
家の中ならまだしも……って家の中でもやめろ。
チリンチリンと音を響かせて中に入る。
「やほやほ、おつかれちゃん!」
「お前さっきの」
「どう?双葉ちゃんのサービス」
本気なのかからかっているのかわからんな。そういう時はノーコメントを貫くに限る。
「むぅ、つれないな〜」
「んで、何食べるよ」
水を向ける。これで何か提案があったらそれに従おう。
「その顔、糸森はもう食べたいもの決めてるんでしょ。それにしよ」
鋭いところに心臓が跳ねる。たまにこちらを見透かしたかのような発言をするのは、俺が分かりやすすぎるせいか。
言い当てられたお返しとばかりに、彼女の前に置かれた伝票を掴み取った。
先ほどと同じ音を響かせて店から出る。
コッコッと軽く楽しげな音がアスファルトに反射している。
「たまには迎えに来てもらうのも悪くないね」
にひっと口角を上げて、彼女は金髪をかき上げた。
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