第27話
side:双葉まとい
部屋の奥へと消えていく糸森を見て思う。
私がここに引越してきた理由、そんなのひとつに決まってる。今の
私と彼が初めて話したのは高校1年の初夏。
黒髪パッツンに眼鏡といかにもな私は、その見た目に違わず教室の隅っこで毎日本を読んでいた。
別にいじめられていた訳では無い。ただ、どのグループにも入れなかったのだ。コミュニケーションが得意じゃない私は、ずっと最初の一歩を踏み出せずにいた。
そんな時、隣の席になった糸森君が話しかけてくれたのだ。
「なぁ、いつも本読んでるけど面白いか?」
初めは新手の煽りかと思ったけど、彼は本当に興味を持ってくれていたみたいだった。仕方なく話していた本の内容も、いつしか彼に伝えるのが楽しみになっていた。
その後も新しい本を読み始める時には彼に紹介して、たまには本の貸し借りなんかもして……。
家まで本を渡しに行くことがあったからご家族とも顔見知りになったり。
いつの間にか、私はクラスの他の人とも話すようになった。
きっかけは些細なことだったけれど、私が彼のことを好きになるのに時間はかからなかった。
果たしてあれが「恋」と呼んでいいものかどうかは些か疑問があるけれど。
結局、告白なんて大舞台に私は立てなかったわけだけど。
卒業してからは別々になって交流も減ってしまった。それでも私が彼のことを忘れたことなんて一度もなかったのだ。
……彼はそんなことない感じなのが腹立たしいな。
久しぶりに会った彼は昔と変わってなかった。
相も変わらず面倒くさそうな顔をして、それでも私の誘いには乗ってくれる。
でも今距離を縮めるのは少し怖い。
彼からすると、突然金髪になった同級生が近くに引越してきたばかりだし、私もここ数年の糸森君のことを知らないのだ。
だから今は、今はちょっとずつお互いの空いた時間のことを知っていきたい。
だから私は彼にこうやって声をかけるんだ。
「ねぇ、糸森。散歩行かない?」って。
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