第26話
マンションのオートロックを解除してドアを潜ると、目の前から見覚えのある金髪が歩いてくる。
「やっほー!今帰り?」
「お前さっきまで電話してたから知ってるだろ」
「そうだった、今から散歩行くけど糸森もどう?」
いつも通り全身真っ黒な服で彼女は外を歩くらしい。真っ暗な夜道を女性1人で歩かせる訳にもいかないか。
見下ろすとスーツに革靴。さすがにこの格好で散歩に行くのもなぁ。
「3分待ってくれ、着替えたい」
「お、まさか釣れるとは!言ってみるもんだね〜」
そのまま彼女はくるっと振り返ると俺の背中をエレベーターまで押していく。
「なんか買いたいものとかあるのか?」
コンビニでスイーツとか、ご飯の準備してたら卵がなかったとか。
「ん〜いや、ちょっと仕事で詰まったから外歩きたいだけ」
何が嬉しいのか彼女はにこにこしながら答える。というか下で待ってればいいものを。
当然のように俺の部屋の階を押して、流れるように「閉」ボタンへ指を走らせる。
「なら1人の方がいいんじゃないか?」
「糸森が来てくれるんならそっちの方がいい」
断固とした口調に反論する気も失せる。
やがてエレベーターは止まり俺たちを吐き出した。
「部屋まで着いてこなくても」
「私の散歩はもう始まっているのだよ、糸森君」
なんだその「ワトソン君」とでも言いたげな喋り方は。俺がワトソンなら双葉はホームズか?
馬鹿言え、こんなふんふん鼻歌歌いながら妙なステップを刻む金髪女子が名探偵でたまるか。
「なら家に帰るのは散歩じゃないから俺の部屋には入らないよな?」
「およ?もう糸森の部屋のこと自分の家って思っていいってこと?」
「どんな都合のいい耳してんだよ」
部屋の前に着くと彼女は手を差し出す。何を求められているか分かってしまった俺は、渋々彼女に鍵を渡した。
「物分かりが良くて助かるわ〜」
そう嬉しそうに口にすると、彼女は俺の言葉を待たずに鍵を差し込んだ。
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