侵略の一報②



会議室を後にしたアイシャは、急ぎ足で自分の部屋に向かった。頭の中はまだサルティナ王国の侵攻でいっぱいだったが、今はそれよりも目の前の問題に集中しなければならない。聖アエリア連合国を守るため、そして、ここヴァルムガードでの魔族との戦いをどう終わらせるか。


部屋に入ると、アイシャは無意識に窓の外を見上げた。薄暗い空に、遠くから戦の気配が漂ってくるような気がした。戦争の臭い――血と鉄の匂いが鼻をつくような錯覚に囚われる。


「どうしてこんなことに……」


ふと、そんな言葉が口をついて出た。彼女はすぐにその言葉を飲み込むと、自分を励ますように頭を振った。


「愚痴ってもしょうがない。やるべきことをやるだけだ。」


深呼吸をひとつして、アイシャは自分の装備を整え始めた。思えば、今までの戦いも決して楽ではなかったが、今はそれを超える状況に立たされている。だが、逆に言えば、これこそが自分に課せられた使命だと感じていた。


そのとき、部屋のドアが静かにノックされた。アイシャは振り返ると、そこにダリウスが立っているのを見た。彼は少し躊躇いながらも、しっかりとした足取りで入ってきた。


「アイシャ、少し話が……」


「いいよ、何か用事?」


ダリウスは肩をすくめると、部屋の中に入ってアイシャの隣に腰掛けた。


「サルティナの侵攻、気がかりだろうけどさ、今は他にやることがあるんじゃないかと思って。」


アイシャは少し眉をひそめ、ダリウスを見つめる。


「他にやること?」


ダリウスは息を吐きながら頷く。


「魔族との戦い、あとサルティナがどれだけ本気で来てるかも気になるけど、正直、今はみんながどう動くかを見極めないと。ヴァルムガードの守備だって、ほっとくわけにはいかないだろ?」


「……確かに、みんなの動きが鍵になるな。」


アイシャは冷静に考えた。サルティナ王国の侵攻が本格化する前に、まず自分たちがどれだけ防衛体制を強化できるか。魔族との戦いが続いている中、ヴァルムガードをどう守るかが焦点になるだろう。


「分かった。まずはヴァルムガードの防衛ラインを強化する。あの連中が来る前に、できる限りの準備をしよう。」


ダリウスは軽く笑みを浮かべると、アイシャに肩を叩く。


「さすがだな。俺たちの力を最大限に発揮して、この状況を乗り越えよう。」


アイシャも微笑み返した。


「当然だ。聖アエリアも、魔族も、どっちも守らなきゃならないんだから。」


その言葉に、ダリウスは少しだけ真剣な表情になり、静かに頷いた。


「俺も、俺にできることをするよ。お前も気をつけろよ。」


「うん、分かってる。」


アイシャは短く答えると、ダリウスと一緒に防衛戦の準備に取り掛かるため、再び会議室に向かうことにした。これから始まる戦いは、予想以上に厳しくなるだろう。しかし、それを乗り越えるために、彼女は全力を尽くす覚悟を固めていた。


その後、アイシャはダリウスと共に防衛戦のための指示を出し、ヴァルムガードの各拠点に対して防衛ラインを再構築することを決定した。急報が届くたびに、彼女はその情報を冷静に分析し、必要な対策を立てていった。


サルティナ王国の侵攻が現実のものとなり、ヴァルムガードの守りは強化されていく。魔族との戦いの疲労を背負いながらも、アイシャと彼女の仲間たちは、これから待ち受ける戦いに向けて、気持ちを新たにしていった。


その夜、アイシャは一人、ヴァルムガードの屋上に立ち、広がる夜空を見上げていた。


「……なんでこんなことに?」


彼女は再び呟いた。だが、今はその答えを探す時間はない。答えが見つからないうちは、前に進み続けるだけだ。


「守らなきゃ……守るために、戦うしかない。」


アイシャは深い息をつくと、再び歩き出した。

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