魔族に対する慈悲
ヌアインが次々と襲い来る魔族を倒していくたびに、兵士たちはその圧倒的な力にただただ驚くばかりだった。だが、彼の行動はさらに奇妙な方向へと進んでいった。ヌアインは倒れ伏した魔族にそっと膝をつき、片手を彼らの額に置き、静かに瞑想するように目を閉じたのだ。
「…安らかに眠れ。この苦しみが終わり、次に目覚める時には、安らぎの中にあることを祈ろう」
ヌアインが祈りを捧げるその姿に、兵士たちは思わず息を飲んだ。戦場で、しかも敵である魔族に対してこんな慈悲深い言葉をかけるなど、彼らの常識では理解できなかったからだ。
「勇者様が…魔族に祈りを?なんで…」
「もしかして、魔族にとどめを刺してないんじゃないか?」
一部の兵士が恐る恐る近寄り、ヌアインが倒した魔族たちを確認してみたが、彼らは静かに眠っているかのように、安らかな表情を浮かべているだけだった。
ヌアインは、倒れた魔物たち一体一体に向き合い、彼らがかつて守ろうとした世界や故郷への敬意を込めて、温かな言葉をかけ続けていた。その言葉が放つ慈愛の波動は、戦場の殺気を静かに和らげ、兵士たちの心にも柔らかな感動をもたらしていった。
「我は、ただ無意味に命を奪いたくはない。たとえ敵であろうと、かつて生きた存在には、それぞれの使命や大切なものがあるのだから」
ヌアインはそう呟き、そっと立ち上がると、兵士たちに向かって穏やかな微笑みを浮かべた。その微笑みは、まるで彼らに「この命あるものすべてに敬意を払い、共に未来を築こう」と言っているようだった。
「勇者様…」
「こんな戦場で、敵にすら慈悲を与えるなんて…やっぱり普通の方じゃない」
その場にいる全員が、ヌアインの壮絶な優しさに胸を打たれ、敵味方関係なく、彼のように強く慈悲深い存在こそ真の勇者だと心から感じていたのだった。
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