勇者、参戦する


ヌアインが北の戦線「ヴァルムガード」に足を踏み入れたその瞬間、兵士たちは驚きの目を見開いた。戦場に現れた彼は、まるで日常の散歩のようにゆっくりと歩き、迫りくる魔族の群れをものともせず悠々と進んでいたからだ。


「お、おい…あれが勇者様か?」

「…なんか、思ってたのと違うな」


戦線に張り詰めた緊張感とは裏腹に、ヌアインは落ち着いた足取りで立ち止まり、軽く手を振り上げると、風が巻き起こり、周囲の魔族が吹き飛んでいく。


「おいおい…今、何が起こったんだ?」

「俺たち、ちゃんと見てたよな?あの人、手を軽く振っただけで…」


兵士の一人が自分の目を疑うようにまばたきを繰り返す。その間にもヌアインは次々と襲いかかる魔族たちを軽く受け流し、一度も表情を変えることなく、あっさりと倒していく。


「す、すごい!まさに勇者様だ!」と感嘆する兵士もいれば、「いや、でもこんなに淡々としてるのっておかしいだろ?」と、まだ事態を飲み込めない者もいる。


その時、特に大きな魔族がヌアインに襲いかかってきた。だが、ヌアインは「少し待て」というように手を上げ、魔族の動きを一瞬で封じ込めてしまった。次の瞬間、その魔族は地面に倒れ伏して動かなくなる。


「今…ただ立ってただけじゃないか!?」

「魔族がビビって倒れた…?何者なんだ、この人…?」


兵士たちはもはや混乱と尊敬が入り交じり、口々に囁きあっていた。ヌアインの戦闘を見守る兵士の一人は、「この勇者様、もしかして本物の魔王さえ倒せるんじゃ…?」と口走り、すかさず隣の兵士に肘で突かれる。


「お前、何言ってんだ?まさか単独では無理だろ…いや、でも…」


兵士たちは目の前で繰り広げられる異様な光景に翻弄されつつも、ヌアインへの信頼と困惑が奇妙に入り交じったまま、圧倒的な力の片鱗を見せつける彼に釘付けになっていた。

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