王女と慈愛の魔王、対面する
玉座の間に柔らかな陽光が差し込み、王女エリシアが一人で佇んでいた。彼女は肩まで届く黄金色の髪をなびかせ、真剣な眼差しで目の前の男を見つめている。勇者として召喚された彼は、王の命を受け、聖アエリア連合国を救う使命を担う存在。その正体は元の世界で「慈愛の魔王」と呼ばれていたが、その素性は王女を含む国の人々には知らされていない──。
エリシアは、国の民を守る強い責任感と優しさを併せ持った王女である。彼女は、異世界から来た勇者に少し戸惑いを感じつつも、国の運命を託す決意を固めていた。
「勇者様…」彼女はやや緊張した面持ちで口を開いた。「私は聖アエリア連合国の王女、エリシア・ルーメンと申します。まずは、異世界からお越しいただき、国を救ってくださるという決意に、心から感謝申し上げます。」
「いや、礼には及ばない。この力が、この世界で役に立つのであれば、それで良いのだ。」
勇者は穏やかな表情で応え、彼の声には驚くほどの落ち着きがあった。その姿に、エリシアは内心で少し驚きを覚えた。強さや恐れを超えた何か、慈愛に満ちた大いなる存在を感じるのだった。
「勇者様…ひとつ、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「何だ?」
エリシアは勇気を振り絞り、問いを口にする。「どうして、そこまでお優しいのですか?異世界の方が、私たちのために命を懸けてまで戦おうとされるなんて…」
通常、異世界から召喚されたばかりの勇者は、この異世界という見知らぬ環境と立場の急変に驚き、戸惑い、あるいは恐れを抱くものだ。混乱の中で状況を受け入れるだけでも精一杯であり、ましてやすぐさま魔物に立ち向かい、討ち取るなど、普通の勇者には考えられない行動である。しかし、目の前の勇者はまるで違っていた。異世界での戦いにもかかわらず、恐れを見せるどころか冷静で、まるでこの世界のすべてを既に知っているかのような落ち着きと、絶対的な自信を湛えていた。
まさに、彼の背後にはただならぬ威圧感が漂い、そこに立つだけで場を支配する力を感じさせる。その様子に、王女エリシアもまた内心で驚きを隠せなかった。この男は、ただの勇者ではない——彼女には、その強大で慈愛に満ちた存在が、この国にとってどれほど特別な意味を持つのか、まだ分からぬままにいた。
その問いに、勇者は一瞬、視線を遠くに向け、過去の思い出にふけるように目を細めた。
「…私は、かつて己の力がどれほどの意味を持つのか、知ることができなかった。それで多くのものを失ったのだ。しかし今は、力を持つ者として、その力が誰かのために役立つのであれば、それに応えたいと思っている。」
彼の静かな語り口に、エリシアの心は揺さぶられた。彼が持つその力は、ただの武力ではなく、慈愛に満ちた強さだった。
「分かりました、勇者様。私たちはあなたと共に、必ずこの国を守り抜きます。どうか、この聖アエリア連合国のために、お力をお貸しください!」
エリシアの決意に満ちた言葉に、勇者は深く頷いた。そしてその瞳には、優しい笑みが浮かんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます