前のエピソード――慈愛の勇者、北端へいく

ヌアインは、雪に覆われた道を一歩一歩、静かに踏みしめながら進んでいた。その足取りは、どこか自然の一部と同化するようであり、異世界の厳しい寒さすら彼に干渉できないかのように穏やかであった。彼はただの一人で歩みを進めているにもかかわらず、決して孤独ではなかった。むしろ、この広大な世界と一体となり、すべてが自分の一部であると感じていた。

彼の目に映るすべてが愛おしかった。風に揺れる雪の結晶、凍てついた小さな草、旅路の途中で出会う動物たちさえ、彼の慈愛の心の中では、等しく守るべき存在であった。脇道に小さく根を張る雑草ですら、自分の延長であり、同じく生を営む仲間であると感じる。彼の視界に入るものすべてが、彼の慈悲深い魂によって抱かれているのだ。

「この身は、ただ一人の存在ではなく、無数のものと繋がる一部にすぎぬのだな…」

心の奥底から湧き上がる思いを、彼は独り言のように呟いた。ヌアインにとって、この広大な世界そのものが「己」であり、宇宙そのものですら、ひとつの命の現れとして愛おしく感じていた。そこには驚くべき心の広さがあった。彼の慈愛は、決して一部の者だけに向けられるものではなく、敵対者すらも含めたすべてに注がれていたのだ。

彼はこの世界に、何をも奪うためではなく、ただ愛するために立っている。それが、自らの使命であると信じて疑わなかった。

北へと続く果てしない道もまた、ヌアインにとっては友であり、旅を共にする「存在」そのものであった。