慈愛の勇者「ヌアイン」
魔物の襲撃の報が入った時、エリシアは王城の一室でその知らせを聞いた。彼女は召喚した勇者であるヌアインに村を救う任務を託し、王城からその背中を見送る立場にあった。しかし、ただヌアインを一人で向かわせるわけではない。信頼する騎士であり護衛役のレオンも共に戦場へと送り出す決断をした。
「ヌアイン様、レオン。どうか無事に戻ってきてください。そして村を、民を救ってくださいますように。」
エリシアは緊張した面持ちで、二人を送り出した。王女としての立場を守り、戦場に赴くことは避けなければならなかったが、国を守るために勇者ヌアインの力を必要としていることも、エリシアには十分理解していた。異世界から召喚されたヌアインは、その圧倒的な強さで次々と魔物を討ち取り、民を守る戦力として頼もしい存在であった。
ヌアインの力は、尋常ではない。通常、召喚されて間もない勇者であれば戦闘に不慣れであり、初めての魔物討伐に臨むことさえも容易ではない。それがヌアインにとっては、まるで日常のように感じられるほど自然なものであった。剣を振るう動きひとつとっても、まるで長年の戦場経験を積んできたかのような精度と無駄のなさがあり、敵の動きを一瞬で見極める冷静さと研ぎ澄まされた感覚が備わっている。
さらに、魔物たちが襲いかかろうとするたび、ヌアインは無意識にその姿から“魔王”のような威圧感を放つことがあった。村を守ろうと戦場に立つ彼の周囲には、まるで冷たい風が吹き荒れるかのような空気が漂う。その圧倒的な威圧に、魔物たちはたじろぎ、戦意を失ったかのように後退する。
王国の兵士たちでさえも、その圧に驚きを隠せず、ヌアインをただ見守るしかできなかった。彼が戦場に立つだけで、敵対する者の心を揺るがし、足をすくませるほどの存在感を放つのだ。まるで、彼自身がかつての世界で頂点に立つ魔王であったかのようにすら思わせる威圧を秘めている。
エリシアは、そんなヌアインとレオンが共に戦場へ向かう姿を、王城の窓から見送りながら、ふと不思議な思いを抱いていた。「いったい、この勇者ヌアイン様は何者なのだろうか?」と。彼が見せる冷静さと戦闘の技量は、どれも異世界からの新参者とは思えないもので、さらに魔物すら畏怖させるその威圧感は、ただの勇者のものではないかのようにも感じられた。
王女としての立場を守りつつも、彼女は心の奥底でヌアインに絶大な信頼を寄せていた。この圧倒的な力を持つ勇者が共にいてくれる限り、どんな試練が訪れようとも乗り越えられると信じていた。そして、エリシアは彼を支え導く存在としての自分の役目も、徐々に自覚し始めていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます