北端の戦線
北端の戦線――そこは、氷雪に覆われた荒涼たる大地が広がり、凍てつく寒風が絶えず兵士たちの士気を削り取る場所であった。聖アエリア連合国にとって、北方の地はかつて栄華を極めた豊かな地域であったが、近年、魔物の襲撃が激化し、荒廃の一途をたどっていた。
雪に閉ざされた街道は、補給隊の往来すらままならず、前線で戦う兵士たちは常に食料や物資の不足に苦しんでいた。補給物資が届いたとしても、量は限られ、満足に兵を養うには程遠い状況である。凍りついた地に掘られた仮設の野営地には、吹きすさぶ風の音がただ虚しく響き、兵士たちの疲労した顔が寒さと不安に色を落としていた。
そして最も深刻なのは、魔物の襲撃が増加する一方で、その勢力が日に日に強大になっていることであった。報告によれば、単なる下級の魔物ではなく、高位の魔物が群れを率いて現れることが増え、これまでの防衛戦術では到底対処できない場面が増えていたのだ。指揮官たちは、次の襲撃に対してもはや有効な手立てがなくなりつつあることを知りながらも、日夜策を練るしかなかった。
北端の要塞都市ヴァルムガードは、かろうじて敵の侵攻を食い止めているものの、壁際には数えきれないほどの傷跡が残されている。砦の石壁には無数のひび割れが走り、修復する暇もなく、兵士たちはそれを盾に身を潜めながらも、次に迫る敵の脅威に備え続けていた。
最前線の兵士たちの表情には、疲労と焦燥、そしてどこか諦めにも似た影が垣間見えた。彼らの多くは、このままでは守り切れないという事実を薄々感じているが、退却は許されない。連合国の防衛線が北方を抜かれれば、敵はすぐさま王都を目指して南下し、全土に未曾有の被害をもたらすことは目に見えているのだ。
戦場を覆う冷たい沈黙の中、誰もが感じていた。このままでは持たない。いくら勇敢な兵士たちが力を振り絞って戦い続けても、この状況を打破するには何か決定的な力が必要だ――人々は密かに、何かの「奇跡」を、あるいは「救いの勇者」の到来を待ち望んでいた。
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