魔王、配下に加える
ヌアインは目の前に倒れ伏す魔族に視線を落とし、少しの間、静かに見つめていた。かつての自分ならば、このような相手を容赦なく葬り去っていただろう。しかし、今のヌアインには、ただ力で制圧するだけでは済まない理由があった。
「蘇らせて、力に変えるのも一つの在り方…か。」
彼はそう独りごちながら、掌に淡い光を宿らせた。魔族の傷ついた体にその光がじわじわと浸透していくと、倒れていた魔族の胸がゆっくりと上下し始め、かすかな息を吹き返した。目を開いた魔族は、混乱した表情でヌアインを見上げ、恐れと驚きの入り混じった瞳を揺らしていた。
「お前、なぜ私を…」魔族は声を震わせて問いかける。
「簡単だ。お前の力は無駄にはできないからな。」ヌアインは淡々とした口調で告げた。「今後、俺に従い、その力を他の者たちを守るために使え。」
その言葉を聞いた魔族は、一瞬困惑したように目を見開いた。しかし、次の瞬間には、その目に不思議な忠誠心の色が浮かび始めていた。敵対することを目的としていた自分を蘇らせ、命を与え直した存在に対する感謝と、次第に芽生える敬意が彼の心に広がっていく。
「…わかりました。あなたの力に従いましょう。あなたが、私に新たな使命を与えてくださるというのなら。」魔族は膝をつき、深く頭を下げた。
ヌアインは微笑みながらその様子を見守っていた。蘇生の力を使って配下にするのは、かつての魔王時代には決して考えなかった方法だった。だが今の彼は、ただ従えるのではなく、共に在り、戦い、守る力としての仲間を作ることが彼にとっての勇者の在り方だと信じていた。
「まずはお前の名を教えろ。そして今後、俺と共に戦い、そして人々を守る力となってくれ。」
「私の名は、ゼルファです。これからは、あなたの指示に従います、ヌアイン様…」
ゼルファが頭を垂れたまま誓いの言葉を口にするその姿に、ヌアインは満足そうに頷いた。そして、彼の視線を横から見上げるアイシャが、感心したように小さく拍手を送っていた。
「やるじゃん、ヌアイン!普通の勇者なら、倒した魔族をわざわざ蘇生させるなんてしないのに。」
ヌアインは照れ隠しのように肩をすくめ、「俺はただ…今できることをしたまでだ」と短く答えた。だが、その横顔には確かな決意が宿っていた。人と魔族の間に立ち、新たな絆を築く勇者としての使命が、彼の中で一層強固なものになっていった。
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