侵略の一報
会議が一段落し、再び落ち着きを取り戻した矢先、要塞都市ヴァルムガードに急報が届いた。伝令兵が息を切らして会議室に駆け込み、緊張に満ちた声で告げる。
「報告いたします!南の国境にて、サルティナ王国の軍勢が進軍を開始しました。聖アエリア連合国の防衛が魔族との戦いで弱体化していると見たのか、突如侵略を仕掛けてきた模様です!」
その報告に、会議室がざわめき、緊張が一気に高まった。ダリウスは驚愕の表情を浮かべ、伝令兵に詰め寄る。
「なんだと……サルティナ王国が、我々に攻撃を?どうしてこんな時に……!今は魔族との戦いに集中すべきだろう!」
アイシャも動揺を隠せなかったが、努めて冷静を保とうとした。彼女の頭の中では、魔族との対峙で消耗している状況が、他国にとって格好の標的となったことへの疑念と怒りが入り交じっていた。
(まさか……同じ人間同士で争う時が来るなんて)
そんな彼女の内心をよそに、ゼルファは冷笑を浮かべ、会議室を見渡しながら冷淡に語り始めた。
「結局、人間というのは、我々魔族と変わらぬものだ。弱者は力を得るために、常に強者の隙を狙い、他者を出し抜こうとする。貴様らの醜い争いが、何よりの証拠だ。」
その言葉に、兵士たちは再びゼルファに向かって怒りの視線を投げかけたが、ヌアインが落ち着いた声で場を和ませる。
「ゼルファ、今は責めるべき時ではない。敵意を抱くよりも、どう立ち向かうかを考えなければ、この状況を乗り越えることはできない。」
アイシャはヌアインの言葉に深く頷き、少しずつ自分の心を落ち着けようとした。今こそ、冷静に対処すべき時だと感じていた。
一方で、ダリウスは拳を握りしめ、アイシャの横で苛立ちを隠せない様子だった。彼は唇を噛み締め、無念の思いを抱えながらも何とか冷静さを取り戻そうとしていた。
(俺たちが守ろうとしている聖アエリア連合国が、他国から攻め込まれるだなんて……!)
そのとき、アイシャは覚悟を決めるように、ダリウスに語りかける。
「ダリウス、こんな状況でうちらが動揺してどうすんの?サルティナ王国の侵攻に対しても、あたしたちは聖アエリアを守り抜くしかないでしょ。魔族に対する防衛と合わせて、奴らの侵攻も止める策を考えなきゃ。」
ダリウスは彼女の言葉を受けて一瞬考え込み、やがてゆっくりと頷いた。その姿に、アイシャは希望を感じ、今ここで心を一つにすることが重要だと再認識した。
ヌアインもまた、彼らを鼓舞するように前を見据え、冷静な指示を出し始める。
「まずはサルティナ王国の進軍ルートを確認し、魔族との戦線と合わせて防衛ラインを組み直そう。急場を凌ぎつつ、彼らの侵攻を阻むための対策を練らねばならない。すべての力を尽くして、聖アエリアを守るんだ。」
ヌアインの冷静で的確な指示に、アイシャも心が引き締まる思いだった。今は、彼ら一人一人の力と覚悟が試される時であり、彼女は自分の役割を全うしようと決意したのだ。
ゼルファがふと、興味深そうにヌアインに問いかける。
「勇者よ……人間同士の争いを前にしても、まだ同胞を守ると言うか?力を持ちながらも、無益な戦いに巻き込まれる愚かさを感じないのか?」
ヌアインは少し微笑みを浮かべながら答えた。
「彼らもまた、弱さや恐怖に支配されているだけだ。だからこそ、今こそ支え合うことが必要なんだ。サルティナもいつか、理解するかもしれない。だが、まずはこの戦いを越えて、私たちが強さを示すことが大切だ。」
ゼルファはその答えに驚きつつも、どこか感心したような表情を見せる。彼の冷淡な眼差しにも、わずかに理解の色が浮かび始めていた。
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