野営
ヌアインとアイシャは、北の戦地を目指す道中、兵士たちと共に野営の準備を整えていた。陽が落ちて、深い夜の帳が降りる中、焚火の光が穏やかに辺りを照らし、冷たい風が静かに頬を撫でていく。
焚火の前で、ヌアインは少し離れた場所に腰を下ろし、炎をじっと見つめていた。その目には何か思い悩むような色が宿っている。彼の心中には、かつて「魔王」として歩んだ過去と、今「勇者」として進んでいる道が、複雑に交差していたのかもしれない。
そんな彼の様子に気づいたアイシャが、そっと隣に座り込んで声をかけた。
「ねぇ、ヌアイン。あんた、こんなこと考えてるんじゃない?“この戦いに本当の意味はあるのか”とかさ。」
ヌアインは少し驚いた表情を見せたが、すぐに苦笑した。「さすがに鋭いな、アイシャ。でも、その通りだよ。戦いの場に立つとき、いつも同じ問いが頭に浮かぶ…これは終わりのない連鎖だと。」
彼の言葉には、かつて多くの争いを目にしてきた魔王としての視点と、今まさにこの地で命を守る立場にある勇者としての責任が滲んでいるようだった。
アイシャは、じっとヌアインを見つめ、焚火の明かりが映し出すその横顔にどこか哀愁を感じた。彼女にはヌアインの真実を知る立場として、その複雑な思いにどこか共感するものがあった。
「ま、考えすぎないことね、魔王…じゃなかった、勇者様」と、冗談めかしながら彼女が言ったが、その声には小さな信頼の響きがあった。
ヌアインは一瞬目を見開き、そしてふっと微笑んだ。「そうだな、今は考えすぎないようにするよ。」
そんな二人のやりとりに、兵士たちは遠巻きに微笑を浮かべていた。勇者ヌアインと、ヴァンパイアの少女アイシャ。この不思議な二人の存在が、彼らの間に新たな希望をもたらしているのは間違いなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます