エリシアはまず、召喚した貴重な勇者を育成することに決めた。幾ら勇者とはいえ、即座に魔王軍と戦わせるのは酷なことだと理解していた。彼の力を最大限に引き出すためには、まずは経験を積ませる必要がある。そこで、エリシアはレベル上げのためのサポート役を用意することにした。

「私たちには、彼を導くための熟練した戦士が必要です。」エリシアは心を決め、近くの騎士団のリーダーに向かって言った。「私たちが今目指しているのは、勇者をしっかりと育て上げ、彼が魔物に立ち向かえるようにすることです。」

騎士団のリーダーであるガイは、エリシアの意図をすぐに理解した。「その通りです、王女様。勇者を育てるためには、彼に適切な指導を行うことが重要です。私が推薦するのは、経験豊富な騎士、レオンです。彼なら、勇者様をしっかりとサポートできるでしょう。」

エリシアはガイの提案に頷き、レオンを呼び寄せることにした。少し待つと、立派な鎧を身にまとった騎士が現れた。彼は真剣な眼差しをエリシアに向ける。

「王女様、お呼びですか？」

「レオン、勇者様の育成を手伝っていただきたいのです。」エリシアは彼に対して頼み込んだ。「彼は貴重な存在ですから、しっかりとレベルを上げ、魔物に立ち向かえる力を身につけさせてください。」

レオンは頷き、「もちろんです。勇者様を守り、成長させることは私の使命です。」と力強く答えた。

*　*　*

特訓が始まった初日、勇者はレオンの指導の下、剣の基本を学ぶことになった。彼は優れた感覚を持っているため、すぐに剣の扱いに慣れていく。

「まずは、この構えから始めましょう。」レオンが教えるが、勇者はすでにその構えをマスターしていた。

「次は振り下ろしの動作です。しっかりと力を入れて！」レオンが指導するが、勇者は少し力を入れただけで、剣が風を切り裂くような音を立てて振り下ろされる。レオンは驚き、剣を持つ手が震える。

「これでは、私が下手に見えます！」レオンは焦りを隠せず、思わずつぶやいた。

「すみません、力加減が…」勇者は恥ずかしそうに頭を掻いた。彼にとっては、この剣術がかつて魔王として戦った経験の一部であり、特に難しいものではなかったのだ。

その後、レオンは技術の基本を教えようと、様々な技を紹介するが、勇者は全てを軽々とマスターしていく。レオンは、勇者がどれほどの力を持っているのか全く理解していなかった。

特訓の後、エリシアは勇者とレオンの様子を見守っていた。「勇者様、どうでしたか？」エリシアが勇者に尋ねると、彼は少し考え込んだ。

「そうですね…たぶん、もう少し難しい訓練をしてもらった方がいいかもしれません。」

「何を言っているんですか？あなたはもう十分強いですよ！」エリシアは思わず声を上げた。「普通、こんなに早く技術を習得することはできません。」

勇者は少し戸惑いながら、笑顔を見せた。「でも、前の世界ではもっと厳しい戦いをしていたので…」

エリシアはその言葉に思わず耳を傾けた。「前の世界…？あなたはどんなところから来たのですか？」

勇者はその質問に何も答えられず、視線を逸らした。彼は魔王であったことを隠すため、何とか言葉を濁す。「ええと、普通の村から…」

「普通の村？では、どうしてそんなに強いのですか？」エリシアは疑問に思った。

その瞬間、勇者はどうしても正直には言えなかった。「やっぱり、いろいろな経験が…？」

エリシアはますます彼に興味を持ち、「私もあなたにいろいろ教えてもらいたいです。もしかしたら、私ももっと強くなれるかもしれません！」と明るく言った。

しかし、勇者の心の中では「私が魔王として戦ったことを知られたら…」という不安が渦巻いていた。結局、彼は自分の過去を隠したまま、エリシアと共に特訓を続けることになった。

特訓が進むにつれ、勇者は彼女の期待に応えようとする一方で、彼女との関係がどんどん深まっていくことを実感していた。それは、コメディ映画のように、彼の過去と現在が交錯する瞬間でもあった。

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