ゼルファと会議室
要塞都市ヴァルムガードの会議室に、少し緊張が走っていた。新たにヌアインの配下に加わった魔族──長い角と鋭い目を持つ屈強な戦士、ゼルファは、冷めた目で人間たちを見渡し、静かに口を開いた。
「……人間どもよ。貴様らの脆弱さには、正直呆れるばかりだ。互いを信頼しようとするが、力の差は明白だ。ここに集うだけで、何ができる?」
ゼルファの冷笑を含む言葉が、会議室を冷ややかな空気に包み込んだ。ダリウスをはじめ、周囲の兵士たちが眉をひそめ、怒りを抑えきれない様子で彼を睨みつける。怒りを込めたダリウスが口を開く。
「お前に何がわかる!俺たちだって、守るために全力で戦ってるんだ!」
ダリウスの拳がテーブルを打ち鳴らす音が響く。兵士たちもその言葉に呼応するように、不満と怒りの視線をゼルファに向けた。だが、ゼルファはそれを無視し、冷淡に言葉を重ねた。
「無力な者の言い訳に過ぎん。守ると言うなら、もっと力を手に入れることだ。そうでなければ、いずれ滅びるだけだ。」
兵士たちの怒りが頂点に達しようとしたそのとき、ヌアインが静かに口を開いた。
「まず弱さを受け入れるんだ。」
その言葉が、会議室に静寂をもたらした。ヌアインは目を閉じ、一瞬、何かを思い出すかのように微笑みを浮かべる。
「俺たちが何もかも一人で背負う必要はない。弱さを抱え、他者に支えられることも、ひとつの力だ。」
ゼルファは眉をひそめ、ヌアインを見上げた。「勇者、貴様がそう言うのか?あの力を持ちながら、弱さなどと……」
「俺も強いだけじゃないさ」とヌアインは穏やかに続ける。「俺がここまで来られたのも、皆が支えてくれたからだ。人も、魔族も、それぞれが欠けた部分を補い合うことで生きている。」
その言葉に、ダリウスは少し驚いた顔をしてヌアインを見つめ、険しい表情から少し和らいだ様子を見せる。自分たちの無力さを指摘されたことは痛みではあったが、ヌアインの言葉には不思議な力があった。
「自分の弱さを受け入れ、互いに支え合う。それが、真の強さを生むんだよ。」
ゼルファもまた、口を閉ざし、考え込むように俯いた。彼の中にも何かが変わりつつあるようだった。
ヌアインの言葉が会議室を包み込み、そこには再び静寂が訪れたが、その静寂は新たな理解と共鳴の始まりであり、戦いに挑むための一歩を刻んだ瞬間であった。
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