アイシャ、意見をいう



北端の戦線に戻ったヌアインは、まずその雰囲気に圧倒された。兵士たちが集まっているテントは、重苦しい緊張感に包まれていた。会議のために整えられた長テーブルの周りには、各部隊の指揮官たちが集まり、彼の到着を待っている。


「おお、勇者ヌアイン殿!お待ちしておりました!」

一人の中年の指揮官が立ち上がり、ヌアインを迎えた。彼の目には希望の光が宿っている。周囲の兵士たちも、彼が魔物を倒してきたという噂を耳にしており、期待の視線を送っている。


「みんな、集まってくれてありがとう。今の状況を共有しよう」

ヌアインは穏やかな声で語りかける。その声は、兵士たちにとって心強いものであり、彼らの緊張を和らげる。


「北の魔物たちは、最近頻繁に襲撃を行ってきています。特に、獰猛な魔物の群れが我々の防衛線を突破し、村を脅かしているとの報告があります」

一人の兵士が資料を広げながら説明を続ける。彼の声には焦りが滲んでいる。


「我々の戦力では、正面からの戦闘は厳しい。そこで、我々は分散して迎撃する必要がありますが、各部隊の連携を取ることが肝心です」

他の指揮官が補足し、各自の持ち場での状況を伝える。彼らの表情には不安と焦燥感が見え隠れしていた。


「勇者殿がいれば、必ず状況を打開できると信じています!」

指揮官の一人が力強く言った。ヌアインは彼の言葉を聞き、気持ちを引き締める。


その時、会議室の一角に小さな影が現れた。アイシャが少し恥ずかしそうに、ヌアインの後ろに立っている。


「ねぇ、ヌアイン。私もこの会議に参加したい!」

アイシャの声は小さかったが、確かな意志が感じられた。彼女のピンクの髪がふわりと揺れる。


「アイシャ、君も参加したいのか?ここはちょっと大人の会議なんだけど…」

ヌアインは少し戸惑いながらも、彼女の熱意を受け入れることにした。


「私はヴァンパイアだから、魔物に関する情報を持ってるし、役に立つかもしれないよ!」

アイシャは自信満々に言い放つ。その言葉に、周りの兵士たちも少し驚いたような表情を浮かべている。


「まあ、確かに君の知識は貴重だ。では、一緒に話を聞こう」

ヌアインは微笑みながら彼女をテーブルの前に呼び寄せた。


アイシャは小さな体を引き寄せてテーブルに近づき、兵士たちの話を真剣に聞く。彼女の目は真剣そのもので、周囲の大人たちの中で一際目立っていた。


「今、我々は北の魔物たちの襲撃に対してどう対処すべきかを話し合っています。君は何かアイデアがあるかい?」

ヌアインが問いかけると、アイシャはすぐに考えを巡らせる。


「えっと、たぶん魔物の動きを見極めるために、隠れて観察するのがいいと思う!それから、私の力を使って、敵の位置を把握できるかもしれない!」

アイシャは自信たっぷりに答えた。


彼女の意見に、指揮官たちの間にざわめきが広がる。「小さな子供がそんなことを考えつくとは…」という驚きの声もあれば、「それはいいアイデアだ!」と賛同する声もあった。


「それなら、アイシャの案を取り入れよう!彼女の能力を活かすための偵察部隊を作るのはどうだろうか?」

ヌアインは提案を受け入れ、アイシャに対する信頼を示した。アイシャは少し照れくさそうにしながらも、その反応に嬉しさを隠せなかった。


「やった!私も頑張るね!」

アイシャは明るい笑顔を浮かべ、目を輝かせる。


こうして、ヌアインとアイシャは会議の場で協力し、兵士たちの士気を高める存在となっていった。


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