驚愕の召喚



魔王は、異世界の神殿の中央に立ち尽くしていた。周囲に集まる神官たちは、魔王を見上げ、歓喜と畏敬の眼差しを向けている。その目には、必死の祈りが込められていた。




「救世の勇者よ…どうか、我らをお救いください!」




勇者として召喚された魔王は、戸惑いと好奇心の混ざった表情を浮かべ、神官たちを見渡す。この世界では、人間たちが彼を「救世の勇者」として信頼し、崇めているのだと改めて感じた瞬間、胸の奥にある奇妙な温かさが湧き上がった。






「…救世の勇者、か」






彼は静かに呟いた。その言葉には、長い間誰かに望まれることなく過ごしてきた魔王にとって、重くもあり、心地よくもあった。初めて「その力を必要としている」と告げられたことが、魔王の心を揺さぶっていたのだ。






その時、神殿の扉が激しく開かれ、一人の兵士が駆け込んできた。息を切らし、神官に向かって叫ぶ。






「大変です!隣国の魔物がここまで迫っています!」




場の空気が一変し、緊張が走った。魔王はそれを見て、静かに目を閉じた。




「ふむ、どうやら…我が試される時が来たらしいな」




魔王は穏やかな笑みを浮かべ、神官たちの方に向き直ると、まるで自分が本物の勇者であるかのように堂々と言った。




「安心せよ。我が、そなたらを守ろう」






その言葉に、神官や兵士たちは驚きと共に一瞬息を飲んだが、すぐに顔を輝かせて膝をつく。慈愛の魔王は、心の中で小さな喜びを感じながら、異世界での初めての「勇者」としての戦いに足を踏み出したのだった。

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