㉔ エピローグ 





 盛大な戴冠式が終わると、絢爛豪華に飾られた聖奥室には謁見を許された者たちが集っていた。


「おめでとう、ですねスナロア教皇。・・・ふふ、神殿や神官、それから教会側の運営は私に任せてあなたはまつりごとに精を出してくださいな。」


 理想を語る日々から、これからはそれを叶える日々へと変わってゆく。


 しかししがらみのない新風が教皇の座に就いても議閣の面々は旧態依然となれば立法も施行も駆け足とはいかない。


 このたった月のひと巡りの日々に詰め込まれた「歴史」と比べれば見劣りするものの、それが実務なのだから止むを得ない。


「ありがとうシクボ。ふくく、だが組織を抜けたとて私には有望な仲間がいる。


 各地へ散った『なかよし組合』のシクロロンたちや忘れな村の赤目たちが実情や変化の報告をくれると言うし、フロラ系守旧派の説得には引き続きカセインが腕を奮ってくれるとのことだから心強い。


 とはいえ、人種・部族の融和を制度で強いるつもりはない。


 我々為政者はただ途切れぬ道を拓き、いさかいを諌めるだけに留めるつもりだ。


 時は世代を経るほどに費やされるだろう。

 しかしいがみ合ってきた者たちに必要なのは知り合い、わかり合い、受け入れ合う時間なのだ。


 今はまず道を阻む尖った小石を除ける地道な作業に徹したいと思っている。

 ・・・ルマたち『フロラ』が拒んだ方策も、やがては彼らに理解されると信じたいものだな。

 また行方をくらませたウルアも気掛かりだが知己のジニやウセミンを失った以上は危険視することもあるまい。


 ただし裁きは必ず受けさせる。


 陸上兵団も「捜索」程度ならば力を借りて良いかと自由は与えた。といって、ミガシから聞き及ぶような民を蹂躙する「自由」には・・・いい。これはミガシ「断罪長」に預けた。


 それからユニローグについては・・・ふくく、

 まだ思案中だ。残念ながらまだ私には妙案が浮かばないのでな。


 まったく。現在唯一の神徒をアゴで使うなど私とて気が引けるだぞ、シクボ。



 さて。


 せっかく呼んだというのにだんまりで通すつもりか、ダジュボイ。」


 手を取る者、払う者はあった。


 スナロアという「ユクジモ人」が教皇となったことへ反発するファウナ系の原理主義組織が、解体した『ファウナ革命戦線』から新たに派生し台頭したと聞けば塞ぐものもある。


 だがそれでも現状ではデモの域で治まっているので特別な対策は取っていなかった。


 そうでなくとも兵団・『スケイデュ遊団』の再編成やフラウォルトのコロナィ閉鎖、それから旧大聖廟の後片付けなど、やらなければならないことは山積している。

 戴冠式の最中ですら方針の原案で頭がいっぱいだったほどだ。


「ああ。悪いがそうさせてもらうぜ。


 アンタは・・・教皇はよそ見してるヒマなんざねぇだろ?


 くくく、それでいいんだよ。


 終わる物語がありゃ始まる物語もある。


 オレたちにはオレたちの、シペたちにはシペたちの、な。」


 あの日、歴史の変わったあの日、キペとニポを連れてノル、エレゼ、ウィヨカ、パシェ、ハユと共にダジュボイも沖へ出た。


 そしてダジュボイだけが帰ってきた。


 きっと、別の物語が続くのだと皆に伝えるために。


「シクロロンがガッカリしてしまいますね。


 ふふ、しかしそれでもあなたは行かせたのでしょう、ダジュボイ?」


 大白鯨ワイグに会うだけでは済まなくなった。

 為さねばならない何かに出会った。


 きっと、そんなところだろう。


 だからダジュボイはそれに苦笑で答えるだけだった。


「また、会いたいものだな。


 ふくく、ではシペたちが戻ってくるまでに仕事を片付けておかねばならぬか。


 このままでは帰ってきても会って話す余裕がない。


 ふくく。楽しみだな。」


 見遣れば窓の先には青の空が広がっている。


 昨日と明日の別なくあり、こちらと向こうを隔てなく繋ぐ空。


 ヒトの想いも似たようなものなのかもしれない。



 時にも場所にも縛られずそれは、はるかを越えて伝い繋がるものなのだから。

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ものがたり 最後 山井  @crosscord

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