㉑ 希望と希求
「くっ! 今の内にオマエらだけでも外に出ろっ! 行けっ! 兄貴もだ、走れるよなっ!
・・・・・じきに、来ちまうぞ。まっくろな希望がよぉ。」
ぐしゃん、ぐしゃん。
「ったく! 来ないならアタシが連れ出すにっ! もう誰も死ぬとこなんて見たくないんだにっ!」
そう言ってシーヤとパシェの手を引く。
「ち、ぺ?・・・ちぺぇっ! ちぺええええっ!
ヤだよこんな・・・ちぺがっ! ちぺがぁっ!」
ぐしゃん、ぐしゃん。
「すまぬダジュボイっ!・・・手荒だが許せニポっ!」
ニポにしがみつくシクロロンごと担ぎ上げるスナロアも背を向ける。
ダジュボイの「行け」とはつまり、「破壊して地下を潰せ」ということだ。
ここで情にほだされ決断を誤ればアズゴが、歴史が遺した警鐘・ユニローグの意味がない。
まだ死にそうもないキぺが、番格であるキぺが、例外であるキぺが自我を失ったまま他の者を覚醒させでもしたら取り返しがつかない歴史の繰り返しになる。
それだけは避けなければならない。
そして申し訳が立たないのだ。
未来を信じ抜いた〔ヒヱヰキ〕のキぺに。
しかし。
「ぐる・・・るるるる・・・」
暴れ疲れた獣はついにその余興にも飽き、
「早く行ってくれ父上っ! コイツは俺たちが食い止めるっ!」
「・・・なぁ、ノルちゃん。」
出口へ走るスナロアたちへその剥かれた赤い眼を向ける。
「ノルっ! オマエなんで残りやがったっ?
いやシペっ、オマエどっち見てんだっ! こっちだろーがっ! ハラ減ってんなら神像でも食ってろ、オラっ!」
「さっき、耳長先生は何て言ってた?」
力では敵わない。
だから呼び起こす。考える。
知識と知恵からこの場を乗り切る機知を。
せめて足止めできるささやかな奇策を。
「ぬるぬるよりはいいですよ。くく、斬れる肉なら相手もできますかねぇ。・・・斬れれば、か。」
「それがキペくんを止める最後の望みなんだろう?」
肌が硬化してもヒトの肉。
ただ斬れても一太刀でどうにかなるはずもない。
「おいボロウ、オマエさっきからナニごちゃごちゃと――――」
「キペちんには〈色の契約者〉のちと、えいようがたりないの。」
遮るように放つノル。
「がぐぐぐ、ぐるるるっ!」
放られた神像さえ食べ尽す獣は出口へ駆け出してゆく。
「そうか。・・・ありがとう、わかったよ。」
そこで同時に飛び出したのは
「ボロウっ!」
「ボロウ君っ!」
もう一人の〈色の契約者〉。
「ボロウちんっ・・・・・なんで
・・・・なんでっ!」
そんな「獲物」が目の前に現れるから――――
がぶ。
「ボロウっ! いま助けに――――」
「バカかきみはっ! それよりどういうことだちびっこっ!」
むざむざ食われに行こうとするルマを引き止めハクが問う。
「ボロウ・・・・オマエ・・・・・・
はっ! まさかノルっ! オマエまで・・・?」
がぶがぶがぶ。
「だ、れも、責めないで、ダジュボイさ、ん。
・・・ノルちゃ・・・きみが、おれと、同じな、のは知って、・・・
くくく、なぁ、ハクさ・・・おれは、痛み・・な、い・・・らいいけ、ど、
・・・頼んで・・いい・・」
がぶがぶがぶがぶがぶがぶがぶ。
「くそったれがっ! オマエら二人とも血と肉をシペにやるつも・・・
くそ、ったれがっ!」
二人とも、
ボロウもノルも同じ考えだった。
メタローグとアズゴが造り上げた人為的な「疑似白者」。
その発動に必要な〈色の契約〉の血と、
過剰消費を補う「栄養」になるその肉体を、
「・・・わかった。」
希望の
「何がわかっただネクラっ! ボロウには手は出させんぞっ! 子どもを斬ってまだ――」
だから決断したのだ。
せめて痛みを知らない自分がその「供物」になろう、と。
「どけ、青二才。
・・・・・・・・・・・・いくぞ。ボロウ、君。」
とはいえ痛みがなくとも苦しみはある。
食べられることに耐えられる時間に余裕などなかった。
無論キぺの「食事」を妨げられる者などここにはもういない。
だからせめて。
「やめろっ! や、やめてくれっ! ボロウはっ! ボロウだけは頼むっ!」
しがみつくルマを蹴り飛ばし
「ハク、さ、・・・・あり、がと・・・」
眼を瞑るボロウの
「聞きたくないぞ・・・・・ボロウ君。」
ざぐん。
首を刎ねる。
「聞きたくなかったぞ・・・・・・っく。
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
そして
「バカよせっ! なんのための犠牲だと思ってんだネクラぁぁぁぁっ!」
斬りかかる。
「おおおおおお――――」
キペは嫌いじゃない。
「おおおおおお――――」
むしろ好きな部類だ。
「おおおおおお――――」
それでも
「おおおおおお――――」
許せない。
「おおおおおお――――」
キぺが、ではなく
「おおおおおお――――」
この運命が。
「おおおおおお――――」
憎くて憎くて仕方なかった。
「おおおおおお――――」
殺せるものなら殺したかった。
「おおおおおお――――」
それができない自分が
「おおおおおお――――」
もっと許せなかった。
いや。
「きみ、それくらいにしてくれないか。」
もっと許せないものが
「ぼくのキペが弱ってしまうよ。」
またぞろ現れたこのジラウだ。
「黙れバケモノがぁぁぁっ!」
言うより早く身を翻してハクはぬるぬるのジラウを斬りつける。
「なん、だってんだよ・・・不死身か?
あんなバケモンとシペ・・・どう食い止めろってんだ。」
そんな気はないのに、逃げるつもりなどないのに、ダジュボイの足は後ずさりをやめてくれない。
恐怖と、狂気があるのだ。
逃げなければ。
頭も心ももう、体に刃向かえない。
といって。
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
ジラウの分体の追跡に逃げることさえできなくなった者は悲鳴を上げるしかない。
阻む行く手にじゃない。
嗤うジラウと暴れる獣に。その狂気に。
もう、闘えない。
もう、逃げられない。
首の落ちたボロウを食べるキぺ。
死ぬことのないジラウ。
絶望だった。
でも。
「・・・まだだバケモノっ! キぺ君は目を覚ますっ! そう信じたボロウ君をボクは信じるっ!」
それでも。
「くっ! ならば俺もゆくぞバケモノっ! 貴様が現れなければボロウはっ! ボロウはぁっ!」
諦めない。
「な・・・・にを、やってんだオレはこんちくしょうっ! 退けるモンかこの闘いっ!」
手放さない。
「キペちん・・・・キぺちんおきてっ!」
見限らない。
「シペっ! 見えるかそなたへ向かう光がっ! 闇を照らす光がっ!」
まだ。
「キペさんっ! 起きて、すべてを変えてっ!」
まだ信じられるから。
「オタクは何を見てきたんだにっ! その目は何のためにあるんだにっ!」
まだまだ信じられるから。
「ちぺぇっ! おきろちぺぇっ!」
信じたいから。
抱きしめたいから。
あたたかな希望を。
光輝く未来を。
「チペぇえええええええええええぇっ!」
だからすべてを撥ねつけて、希望を叩き起こす
「ぐるる・・・」
そして。
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