冒険(求愛行動)で忙しいので邪魔だてしないで下さい ~チビでズンドーでも毎日元気に生きてます~(旧題:リリットの冒険)

シュンスケ

グランド・プロローグ

グランド・プロローグ



「ゴーチエ村が閉鎖!? 村に王国兵が派兵されたですって?」


 外出しようとしたバティルドは、父親のクーネルランドに呼び止められ、執務室で聞かされた内容に耳を疑った。


「ロイス王子の指揮の元、疫病が発生したゴーチエ村に王国兵が向かったのだ。バティルド、おまえは疫病が終息するまでは外出禁止だ」


「疫病が発生したのなら医師団を派遣すればよいではありませんか。なぜ兵士ですの?」


「被害を最小限に留めるため、村を封鎖し、村人を完全に隔離するのだそうだ」


「治療はどうするのですか?」


「治療の話は出ていない」


「なんですって!?」


 バティルドはくるりときびすを返した。


「どこへ行くつもりだ!?」


「どこへだっていいではありませんか!」


「警備兵! 娘を取り押さえろ!」


 執務室の前に控えていた警備兵に、腕をつかまれた。


「離しなさい! おまえたち!」


 クーネルランドは厳格な声で警備兵に命じた。


「娘を部屋から出すな。ドアの前で見張っていろ、いいな!」




 外からドアにカギがかけられ、バティルドは自室に軟禁状態となった。


 机の前まで行って、引き出しの中から小さな箱を取り出した。


 蓋を開けると、中には瑪瑙めのうのペンダントが輝いていた。


「アゲート……」


 紺色の髪の毛と瑪瑙めのうの瞳を持つゴーチエ村の村娘アゲート。


 彼女のために作った瑪瑙のペンダント。


 喜ぶ彼女の顔が見たい。そんな思いを胸に抱いて。


「足止めを食らっている場合ではありませんわ。ここを抜け出して私に出来ることをしなくては」





 ゴーチエ村は炎に包まれていた。


 燃え盛る炎の中を村人たちが逃げまどっていた。


 王国軍の兵士たちはそれぞれの得物を手に、村人たちを追い回していた。


「オラオラ! 手間かけさせんじゃねえよ! クズども!」


「王子様の直々の命令なんだ。村人は皆殺しにしろってな」


「武器も持たねえ弱え人間を殺すだけの仕事だ、こんな楽な仕事はねえよなあ!」


「人はそれを虐殺と呼ぶ、将軍様のお言葉だぜぇ! ギャハハハハ!」


「虐殺サイコーーッ!」


「ヒャッハー!!!」




 アゲートはクローゼットの隅に縮こまってブルブル震えていた。


 父と母の叫び声が聞こえた後は、何も聞こえなくなった。


 突然やってきて村に火をつけて回った王国兵。


 真っ先に火が付けられたのは病人がいる小屋だった。


 村長は切り殺され、逃げ出した村人たちもみんな殺された。


 大人も老人も子供も無差別に。



 

 見つかりませんように、王国兵が一刻も早くここから去りますように。


 ブルブル震える手を組んで、アゲートは神に祈りをささげた。


「みぃーーつけた!」


 クローゼットの扉が開かれ、ニヤけた兵士が顔をのぞかせた。


 恐怖のあまりアゲートは悲鳴を上げることさえできなかった。


 兵士はアゲートの腕をつかんで引きずり出した。


「おおっ! ガキのくせにいいカラダしてんじゃねえか。しかも、紺色の髪に瑪瑙めのうの瞳とか、売れば高値間違いなしだぜ」


「大人になりゃ、上玉になったかもしれねえな」


「こいつぁ大人にゃなれねえが、そのぶん今俺がここでかわいがってやんよ」


「おい、疫病に罹っても知らねえぞ」


「そんときゃ、そんときだぜ、げへへへへ!」


 兵士はアゲートを組み伏せてスカートをまくり上げた。


「冥途の土産だ、受け取れ!」


「いやっ!」


 バタバタ動かした足が、兵士の固い股間に命中した。


「ぬおおおおっ!」


 股間を押さえて蹲った兵士の横を通り抜けようとしたが、仲間の兵士に髪をわしづかみにされて引きずり倒された。


「おっと、逃がさねえよ」


「このアマ! 俺のクラ■をよくも! 断罪だあっ!」


 ヨロヨロと立ち上がる兵士を仲間がからかった。


「ク■ラってなんだよ? 断罪とか、てめえは王子様か? うひゃひゃ! 腹痛てえ!」


「うるせぇっ!!」


 激昂した兵士は剣を抜いて娘の胸に突き刺した。


「がはっ!」


「思い知ったか、クソアマがーーっ!」


「バ……ティ……」


 村娘の瑪瑙色の瞳から光が失われた。


「おいおい! もったいねえことすんなよ!」


「生きていようが死んでいようが女は女だ! 違うか?」


「悪趣味だな、だがそれもよし!」


 兵士たちは魂の抜けた村娘のカラダに覆いかぶさった。





 バディルドが屋敷を出て、ゴーチエ村に駆け付けた時には、兵士たちの饗宴は終わった後だった。


 焼け跡の間を歩くと、あちこちに焦げた村人の死体が転がっていた。


 アゲートの家の前にたどりつくと、バティルドはガクリと膝をついた。


 焼かれて骨だけになった三つの死体が灰の中に横たわっていた。


「ああっ!」


 ショックを受けて動けないアゲートの隣にいつのまにか父親のクーネルランドが立っていた。


「バティルド、おまえはここには来ていない、いいな!」


「ううっ、お父様……」 


「おまえはまだ12歳の子供だ。責任を感じることも、気に病む必要もない」


 父親に腕をつかまれたバティルドは、抵抗することなく馬車に乗り込んだ。


 クーネルランドは馬車に乗る前に、焼け跡を振り返ってつぶやいた。


「疫病で村が一つ消えただけだ。ただそれだけのことなのだ」


 灰を巻き上げながら、馬車はゴーチエ村から遠ざかっていった。





 ◆ ◆ ◆ ◆





 人里離れた森の中に、人とは違う知性を持った生物が棲息していた。


 美しき森の妖精たちとともに暮らすその生物はリリットと呼ばれていた。


 四頭身でズンドーで、身長は80センチメートルくらいの小さな生物。


 20人~60人くらいの小さな集落を作り、それぞれの村で生活をしていた。




 とあるリリット村では土の中からリリットの赤ん坊が生まれていた。


 特に目を引いたのが、紺色の髪の毛と瑪瑙めのうの瞳を持つ赤ん坊だった。


「うわーっ、きれいな瞳!」


「この子の名前は瑪瑙めのうできまりね」


「まんまじゃん。でも、ぴったりの名前だね」


 須臾しゅゆ翡翠ひすい琥珀こはくは、自分がだっこすると言って瑪瑙めのうを取り合った。


 三人のお姉さんリリットが騒がしかったせいか、


 赤ん坊はくしゃっと顔をゆがめると、この世の悲しみを一身に背負ったような大きな声で泣きだした。






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※グランド・プロローグを追加しました。(2024.11.05)

第一章~第三章はリリットの物語。第四章が主に人間の物語。このプロローグが直結するのは第四章になります。

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