第6話 村娘と王子

※ジゼルの過去話です。

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 ジゼルはふくれっつらで、踊る人々をながめていた。

 今日は年に一度のお祭り、焚火の周りを村人たちが踊っていた。

 踊りは大好きだ。今すぐにでも輪の中に入って踊りたかった。

 だけど、一緒に踊ってくれる相手が見つからなかったのだ。

 輪の中にアゲートがいた。ときどき村にやってくる男の子と踊っていた。

 笑顔がはちきれそうだった。


 くぅ……。

 あたしだって相手さえいれば、誰よりも上手に踊ってみせるのに。


「俺と踊っていただけませんか?」

 顔を上げると見目麗しい少年が手を差し出していた。

 ジゼルはその手を取って、踊りの輪の中に入った。


 少年の踊りは力強く、リードも上手で、ジゼルはわくわくしながら踊った。

 あっという間にジゼルと少年は踊りの中心になった。


「こんなに踊ったのは初めてだ」

「あたしも」

 息を切らして二人は輪の中から抜け出した。

「そういえば、この村には見たことのない道具がたくさんあるようだが……」

「それ、あたしが作ったんです!」

「君が? どうやって?」

「なんとなく、パーッと思い浮かぶんです。こんな道具があったらいいな、できたらいいなって」

「すごいな、君は」


 一休みした後はまた踊りの輪の中に加わった。

 今までで一番楽しいお祭りだった。


 数日後、村に貴族の馬車がやってきて、ジゼルは男爵家の養子に迎え入れられた。

「やんごとなきお方の推薦で、君を我が男爵家に迎え入れることになった。君は私が平民の娘に産ませた婚外子という扱いになる、いいね」

「はい、お父様」

「君は発明が得意だそうじゃないか」

「はい」

「これからは、シレジア王国の為に君の発明を活かしてほしい」


 村では便利な道具が求められていたが、男爵家では主に武器関連の発明が求められた。

 ジゼルは思い付く限り武器の情報を提供した。

 男爵は大喜びで、情報を上層部に持っていった。そのせいか、男爵家の財政はとても潤っていた。


 村に疫病が発生し、死者が多数でたと知らされたのはその頃だった。

 村にいなくてよかったと、胸をなでおろしたものの、実の両親の死を知らされて悲しみにうちひしがれた

 ジゼルは両親のぶんも強く生きて行こうと決意した。


 12歳になると王立学園に入学が認められた。

 広い学園で道に迷っていると、廊下の角で人とぶつかった。

「あいたたた、すみません」

 ぶつけた鼻をおさえて顔を上げると、そこにいたのはお祭りの日に出会った少年だった。

「あ、あなたはあのときの!」

「久しいな、ジゼル」

 煌びやかな衣装を身にまとい、四人の従者を連れた少年は、シレジア王国の王子ロイスだった。


 カチッ!

 まるで暗い部屋に明かりが灯るように、前世の記憶が明瞭になった。


『夜明けを告げる鐘の音が響き、朝の日の光に妖精は消えていく』


 ジゼルはその物語のヒロインだったのだ。


(私は転生者で、この世界は物語にそっくりな世界なんだわ)


「驚かせたか。どこか怪我はないか?」

「だ、だいじょうぶです、王子殿下」

 ロイスは寂しそうに首を横に振った。

「あの時のように親しくしてくれると嬉しいよ」

「は、はい、善処します!」

 ブンブンとジゼルは首を縦に振った。

「ハハハ。君は面白いな。ではまたな、ジゼル」

 王子と従者が去ると、次は悪役令嬢が三人の取り巻きを引き連れて現れた。

「あなた、どこかで見た顔ですわね?」

 ジゼルはじわじわと後ずさった。

「い、いえ、初対面です」

「まあいいですわ。あなた、殿下に馴れ馴れしすぎるんじゃありませんこと?」

 物語を読むのとは違い、ずいっと詰め寄ってくる悪役令嬢は迫力満点だった。

「なにかおっしゃい。その口は飾りですの?」

「しっ、しっ、しつれいしますっ!」

 ジゼルは走ってその場から逃げだした。


 王子とジゼルと悪役令嬢。これから始まる物語のシナリオがジゼルの頭の中をぐるぐると駆け巡った。


 虐めや襲撃など、かなり危険な目に遭遇するが、物語の最後はハッピーエンドだ。

 ジゼルは王子妃となり、悪役令嬢は国外追放となる。


 それを実現するためには、シナリオ通りにフラグを回収しなければならない。


 ジゼルは立ち止まり、パチンと頬をたたいて気合をいれた。


「よーーし! ハッピーエンド目指してがんばるぞーーっ!」


 校舎の片隅で、ひとり右手を掲げたジゼルだった。

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