第6話 武装蜂起


 噂はありましたが、それが本当に起こるとは、誰も信じていませんでした。

 しかし、それは本当に起こったのです。


 夜明け前、瑪瑙の隣で眠っていた玻璃が、ふいに起き上がって、ハウスの外へ飛び出しました。

 目が覚めてしまった瑪瑙も玻璃を追って外へ出ました。


 すると、突然……。


 バン、バン、バン!


 銃声が静寂を切り裂きました。


 音がしたユリコーンハウスの方を見てみると、銃を手にしたユリコーンたちが、鉄条網を断ち切っているところでした。


 ユリコーンたちの蜂起です。


「さあ、早く!」

 いつのまにかシルユリが隣に来ていて、瑪瑙の手をひっぱっていました。


 リリットたちは、ユリコーンたちといっしょに、外めがけて走り出しました。


 背後からアル・ブレヒトたちの一斉射撃が始まりました。


 ズババババン!


 みんなバタバタと倒れていきます。


玻璃はりは?」

 振り返ると、玻璃はひとりのユリコーンの背中におぶわれて逃げていました。


「振り返らないで!」

 シルユリに言われ、瑪瑙は無我夢中で走り続けました。



 いつのまにか、地面はコンクリートから土に変わっていました。

 あたりは草木のおいしげった森の中でした。


 ユリコーンは次々に木に溶けこみ、リリットは土にもぐって、追手から身を隠しました。

 瑪瑙も土にもぐろうとしたところで、シルユリの様子がおかしいことに気づきました。シルユリは地面に膝をついたまま、一歩も動こうとはしませんでした。


「どうしたの?」

 と尋ねると、苦しそうなうめき声が返ってきました。

 見ると、シルユリの手と足の肉がえぐられていました。

 銃弾が当たったのです。

「しっかりして、シルユリ! ああ、どうしよう」


 アル・ブレヒトたちが銃を乱射しながら、間近に迫ってきています。このままでは二人とも蜂の巣です。

「先にお行き」

 とシルユリに言われましたが、瑪瑙はきっぱりと首を振りました。

「シルユリを残して行くなんて、絶対にいやっ!」



 どうしたらいいの?

 リリットたちはもうみんな土の中です。

 ユリコーンたちの姿もどこにも見えませんでした。

 アル・ブレヒトに見つかるのも時間の問題でしょう。


 瑪瑙にできることと言ったら、これしかありませんでした。

 シルユリを抱いて、土の中にもぐったのです。

 たとえこのままいっしょに死んでも、アル・ブレヒトの手にかかって死ぬよりはマシだと思いました。


 深く、深く、もっと深く。誰の手も届かないところへ。


 シルユリが痛みに苦しんでいます。瑪瑙の心も同じくらい痛みました。



 足元の土がなくなったかと思うと、瑪瑙とシルユリはストンと落ちてしまいました。

 そこは地底にぽっかり空いた洞窟でした。

 水がチョロチョロと流れているところを見ると、おそらく地底の川に違いありません。

 水際まで行って、瑪瑙は手で水をすくい、シルユリに飲ませました。それから、傷口をきれいに洗いました。痛そうにしていたシルユリでしたが、やがてスースーと寝息をたて始めました。


 瑪瑙は頭上の土の壁を見上げました。


 みんなうまく逃げおおせたかしら。

 やさしくて穏やかなユリコーンが銃を手にして戦ったなんて、いまだに信じられませんでした。けれど、あの地獄のハウスにいたって、いずれひからびて死んでしまったに違いありません。だからこれでよかったのかもしれないと思いました。


 ユリコーンもリリットも、けっして滅びたりしないわ。瑪瑙は強く感じました。

 この洞窟を行けば、どこかにたどり着ける。

 そして、たくさんのユリコーンに会える日がきっと来る……。

 闇の中で、瑪瑙はシルユリの隣で丸くなって眠りました。


 洞窟の中はまったくの暗闇というわけではありませんでした。

 太陽から吸収した光と熱を、少しずつ放出する太陽石サンストーンのおかげで、ほのかに明るく暖かいのでした。

 太陽石サンストーンの光のもとで、瑪瑙は毎日、シルユリの傷口を洗ったり、水を与えたりを繰り返しました。

 また、ときどき地上に出て、薬草ムーンミントや木の実を取ってきたりもしました。そうしていると、シルユリもだんだん回復してきたようでした。

 シルユリが歩けるようになると、しばらくの間は、地上に出るよりも洞窟の中を歩いていこうということで、ふたりの考えは一致しました。

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